研究課題/領域番号 |
16H05369
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
玉井 克人 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (20236730)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 再生医学 / 皮膚 / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究において、HMGB1ペプチド投与により皮膚損傷部に骨髄由来末梢血間葉系細胞(mesenchymal blood cell, MBC)の集積が誘導される結果、皮膚末梢神経の再生が促進される可能性が示された。具体的には、マウス背部皮膚に全層皮膚欠損を作成した皮膚潰瘍モデルに対して、HMGB1ペプチド投与により誘導される組織学的変化を検討した。その結果、HMGB1ペプチド非投与群ではシュワン細胞による髄鞘を持った異常な有髄神経が再生皮膚に形成されること、シュワン細胞からTGF-βが産生される結果、異常有髄神経周囲に線維化が生じ、瘢痕治癒が誘導されること、一方HMGB1ペプチド投与群では異常有髄神経形成が抑制される結果、正常皮膚組織と同様の無髄神経再生が誘導され、その結果瘢痕形成が抑制的に制御されることが明らかとなった。さらに、表皮内のメルケル細胞が形成する知覚受容装置タッチドーム(touch dome)の形成が瘢痕部は著明に減少することが明らかとなり、HMGB1ペプチド投与により非瘢痕性皮膚再生を誘導することによりタッチドームの喪失が抑制的に制御され、潰瘍部皮膚の知覚再生を促進し得ると予想する。 すなわち、HMGB1ペプチドにより末梢血中に増加するMBCの潰瘍部皮膚集積により正常神経再生が誘導され、非瘢痕性機能的組織再生促進が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HMGB1ペプチド投与により骨髄由来末梢血間葉系細胞MBCが増加することが、マウス基礎研究のみならず、ヒトにおいても確認された(医師主導治験および臨床研究)ことから、本研究によるMBCの皮膚恒常性維持機構解明研究の重要性がさらに高まりつつある。今年度の研究によりMBCが皮膚の非瘢痕性機能的再生に寄与することが明白となり、特に表皮と同じ外胚葉性組織である神経再生もMBC動員により促進されることが明らかとなりつつあることから、研究の進捗はおおむね順調と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究において、HMGB1ペプチド投与による損傷部皮膚へのMBC集積誘導により、正常神経再生誘導による非瘢痕性機能的組織再生促進効果が得られる可能性が示された。今後は、MBC集積による非瘢痕性機能的組織再生促進メカニズム解明研究を進めていく予定である。 具体的には、PDGFRα-Cre/flox-YFPマウスと野生型マウスの共生モデルを作成し、その野生型マウス背部皮膚に潰瘍を作成した後HMGB1ペプチドあるいは生理食塩水を全身性に投与する。潰瘍面の上皮化を待って上皮化領域皮膚を生検し、透明化後にβ-tubulin抗体TUJ-1を用いて神経線維特異的蛍光免疫染色を実施し、HMGB1ペプチド投与の有無とPDGFRα陽性細胞(MBC)の集積程度および神経再生程度の相関を定量的に解析する。さらに、皮膚集積PDGFRα陽性細胞をFACSソーティングにより回収し、RNA sequenceによりトランスクリプトーム解析を進め、MBCが皮膚集積後に放出する分泌蛋白リストを作成することにより、MBC集積による神経再生促進に関わる分子メカニズムの解明を進める。
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