研究課題/領域番号 |
16H05370
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
大山 学 杏林大学, 医学部, 教授 (10255424)
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研究分担者 |
高橋 良 杏林大学, 医学部, 講師 (00317091)
佐藤 洋平 杏林大学, 医学部, 助教 (90736307)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒト皮膚再生 / ヒトiPS細胞 / 付属器再生 / 分化誘導 |
研究実績の概要 |
研究計画初年度となる本年度は 1)研究計画の基盤となる正常ヒトケラチノサイトと線維芽細胞を用いた3次元皮膚作成法の確立 2)フィーダーフリー培養下で維持されたヒトiPS細胞からのケラチノサイトおよび線維芽細胞系統の間葉系細胞への分化誘導 3)ヒトiPS細胞から分化誘導した細胞による3次元皮膚の再構成 4)正常ヒト細胞により再構成された皮膚にWNTシグナル系活性因子を作用させ、その影響を評価することを行った。 まず、コラーゲンゲルに線維芽細胞を混合し、その上にケラチノサイトを重層し気層培養する方法により安定して重層扁平上皮構造を有する3次元培養皮膚の作成が可能になった。また培養皮膚の免疫組織化学的評価を行いケラチノサイト、線維芽細胞のマーカーの発現を確認した。ヒトiPS細胞からの分化誘導に関して2系統の異なるヒトiPS細胞ラインをレチノイン酸とBMP4、またはアスコルビン酸とTGFβを用いてケラチノサイト系統の上皮系細胞と線維芽細胞系統の間葉系細胞へと分化誘導し、それぞれの系統への分化をRNAおよびタンパクレベルで確認した。 その後、ヒトiPS細胞から誘導した細胞を用いて前段階で確立した作成法にて3次元構造の作成を試みた。1系統のiPS細胞ラインに由来する細胞から得られた構造体を組織学的に解析したところ、皮膚類似構造が一部で再現されてはいたが正常線維芽細胞と異なりヒトiPS細胞由来線維芽細胞はコラーゲンゲルに均一に分布せず、立体構造の上方に集まる傾向があった。 また、ヒトiPS細胞由来ケラチノサイトの移植数を正常ケラチノサイトと同じにすると組織再構成の効率が悪いことが明らかとなった。正常細胞由来3次元構造にWNTシグナル活性化因子を作用させた実験は、現時点では組織の生存率が不良で解析が困難であるため今後分子を変更し再実験する必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請時の本年の研究実施計画では1)ヒトiPS細胞からの上皮・間葉系細胞の誘導・培養と皮膚立体構造の再現 2)培養皮膚の表皮-真皮結合部で器官誘導シグナルの発現強度が高くなるin vitro環境条件の確立を目標としていた。 前者に関しては通常の培養ヒトケラチノサイトと線維芽細胞を用いて安定した3次元培養皮膚の作成法を確立。ヒトiPS細胞からケラチノサイト、線維芽細胞系統の間葉系細胞、また間葉系幹細胞の誘導法にも成功し、それらの細胞を用いて3次元培養皮膚作成の技術的基盤を確立することができた。しかし、現在、ヒトiPS細胞からの各細胞系統への誘導が安定しておらず、また、分化誘導して得られる細胞の収量が少ないためヒトiPS細胞を用いて再生された立体構造が部分的かつ、不完全でありさらなる誘導プロトコールの改善が必要であることがわかった。 また、間葉系細胞の作成に2つのプロトコールを用いているが、そのうちの一つのプロトコールで作成された細胞をもってのみ立体構造の作成を試みることができたことから、当初の到達目標を完全には達成できなかった。また、表皮-真皮結合部における器官誘導シグナルの発現の検証に関しては、まず皮膚付属器誘導に重要なWNTシグナルを活性化する低分子化合物であるCHIR990212を正常培養ヒトケラチノサイトと線維芽細胞から再構成した3次元培養皮膚に作用させたところ、予想以上の組織障害が生じ器官誘導シグナルの検討が困難であることがわかった。 以上より、実施計画立案当初に予定した実験をほぼ遂行し、また、今後、本研究計画を遂行するための基礎的技術を検証したことから計画は確実に前進してはいるものの、今後さらに計画を進めるうえで解決するべき問題が生じ、それを年度内に解決できなかったことから計画は若干ではあるが遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、1)安定したヒトiPS細胞由来上皮-間葉系細胞による3次元培養皮膚の作成と2)通常細胞で作成した培養皮膚を用いた組織障害の少ない発生関連シグナル系活性化因子の探索 を最優先課題とし、その解決をはかる。 1)に関してはまず問題となるのは培養皮膚再構成に用いる細胞数であろう。これまでの実験によりiPS細胞を分化誘導して得られた分画は上皮系、間葉系を問わず様々な分化度の細胞からなる不均一な集団であるため培養皮膚作成時に多くの細胞が失われることが明らかである。この問題を解決するため誘導のスケールを大きくし、途中に上皮、間葉系細胞に特化した培養条件での継代培養を入れることでヒトiPS細胞由来細胞の純度を高めつつ収量をあげるよう工夫する。 また、培養皮膚の真皮に相当するコラーゲンゲルの気層側にiPS細胞由来の間葉系細胞が遊走する問題に関しては、現在経時的に組織を採取し機序を解明中である。解決法として気層と接する部分に関してさらに上からコラーゲンゲルを重層するなどを試みている。また、間葉系細胞として現在使用しているアスコルビン酸、TGFβを用いた誘導法以外にも、間葉系幹細胞培地を用いて誘導した細胞を使用するなどの解決法を考えており施行する予定である。 2)に関して現在、発生関連シグナル系活性化因子として低分子化合物を使用しているが、組換えタンパクへの変更を予定している。具体的にはWNT3a、10などを想定している。これらの分子の組織傷害性が少なく、付属器発生関連シグナルを上昇させることが明らかになれば、それを使用してヒトiPS細胞由来細胞を用いて再構成した培養皮膚の分化培養を試みる。 さらに使用するヒトiPS細胞のライン数を増やし、上記の問題が解消された次のステップとしてヒトiPS細胞より作成した未分化細胞シードを上皮、真皮構造の間に挟み、培養再構成組織全体の分化誘導を試みる。
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