研究最終年度は、これまでの知見を集約し、1)前年度確立したヒトケラチノサイト(KC)、毛乳頭細胞塊(DP)を利用した3次元培養によるヒト皮膚付属器、特に毛包構造再生系への器官形成シグナル系活性化因子の添加による毛包特性の再現性向上の可能性 と2)ヒトiPS細胞由来毛包構成細胞を用いた3次元培養系による毛包構造再現の可否 3)ヒトiPS由来細胞を含む3次元培養立体毛包再生系への上記活性化因子添加の影響 につき段階的に評価した。 コラーゲンゲル内でDPに接するよう円筒状にケラチノサイトを注入し毛包構造を再現する3次元培養系では、外観だけでなく、ヒト毛包同様に部位特異的なkeratin13、14、17、19の発現様式を示す構造体が得られた。 また構造体ではkeratin (KRT) 25、33a、40、82など毛包特異的ケラチンに加えて、DPに発現するWNT5A、LEF1などの発現もみられた。さらにWNT活性化因子の培養系への添加にてこれらマーカーの発現の増強がみられた。 次いでヒトiPS細胞由来KC(iKC)、DP様細胞塊(iDP)を用いて上記再生系で個々に対応する構成要素を置換したところ、iKCは生存率不良であったが、iDPではDPと同様の構造体が再生された。強度こそやや低いが毛包関連マーカーの発現もみられた。 さらに、KC、iDPからなる毛包再生系に器官形成シグナル系活性化因子であるWNT、SHH、EDAを単独あるいは組み合わせ添加したところ、発現が増強する毛包関連マーカーがみられた。 以上より、上皮、間葉系双方の細胞ともヒトiPS細胞由来とすると、立体構造の構築は技術的に困難ではあったが、胎生期において器官発生に重要なシグナル活性化因子をヒトiPS細胞由来細胞を含む3次元培養系に作用させ付属器再生を試みるという本計画の目標達成のための技術的基盤を確立することができた。
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