研究実績の概要 |
平成28年度は行動薬理学的手法により、恐怖記憶の想起・消去に関与するセロトニン受容体を推定し、その詳細なシグナル伝達メカニズムについて電気生理学的手法で明らかにすることに取り組んだ。海馬には14 種類のセロトニン受容体のうち、ほぼ全てが発現している(Tanaka et al. 2012)。そのうち不安・恐怖や記憶・学習に関与すると推定されている8種類の受容体(5-HT1A, 2A, 2C, 3, 4, 5A, 6 and 7)について、それぞれの拮抗薬の海馬局所投与を行い、恐怖記憶の想起・消去に関与するセロトニン受容体を推定した。その結果、腹側海馬の5-HT7受容体が恐怖記憶の想起に関与することが見出された。また、腹側海馬の5-HT2C受容体が消去学習を促進している可能性が示された。さらに5-HT7受容体の機能をパッチクランプ法によって追究し、腹側海馬CA3領域の錐体細胞に発現する5-HT7受容体を刺激することでhyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated (HCN) channelsの機能が亢進し、入力に対する感度が上昇する(反応しやすくなる)ことが見出された。また、この感度が恐怖条件付けによっても上昇することが見出されたことから、恐怖体験が海馬の入力応答感度を5-HT7受容体を介して上昇させ、その後の関連刺激に対する応答を過敏にしていることが推測された。
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