研究実績の概要 |
統合失調症では大脳皮質パルブアルブミン陽性ニューロン(PVニューロン)の機能変化が認知機能障害に関与していると想定される。本研究では、統合失調症のPVニューロン変化におけるOXTシグナルの重要性を確立することを目的として開始した。しかし、平成29年度、1コピーの標的RNA分子の検出が理論上可能とされるRNA検出技術を用いても、健常ヒト大脳皮質ではGABA合成酵素を発現する抑制性ニューロンにオキシトシン受容体(OXTR)mRNAの発現は検出されなかった。本年度は、公開されているデータベース(Allen Brain Atlas)でOXTRの遺伝子発現が確認されており、統合失調症における陽性症状の発現に関与する黒質においてOXTRの発現を調べた。健常対照例の黒質では、ドーパミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)を発現するニューロメラニン陽性ニューロンにおいて、OXTR mRNAの発現が認められ、ドーパミン作動性ニューロンにおけるOXTRの発現が確認できた。そこで、同性でかつ年齢、死後経過時間、RNAの保存状態が近い健常例と統合失調症例のペア14組を用いて、TH mRNAの発現で定義されるドーパミンニューロンが集積している領域(緻密層)においてOXTR mRNAの発現を定量比較した。その結果、統合失調症では健常者に比べOXTRの発現が平均で10%ほど増加し、THの発現が平均で8%ほど低下してることが判明した。しかし、これらの変化に統計学的な有意性は検出できなかった(TH mRNA: F1,21=0.06, P=0.81, OXTR mRNA: F1,21=0.05, P=0.82)。以上の結果から、統合失調症ではドーパミンニューロンにおいてオキシトシン受容体の発現に変化はなく、オキシトシンが陽性症状の発現に関与している可能性は低いと考えられた。
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