研究実績の概要 |
ヒトの睡眠・生体リズム調整機能の加齢変化に個体差が生じるメカニズムは光感受性、位相反応特性、睡眠恒常性に関わる個体側の遺伝要因のほか、日照量、食習慣や運動など環境要因の相互作用から理解する必要がある。近年、加齢によりDNAメチル化などエピゲノム制御の変化が起きること、その一部は食事や運動習慣など環境要因の影響を大きく受けることが明らかになっている。本研究は、睡眠の質的量的低下や内的脱同調などの睡眠・生体リズム調節障害が高齢者の認知機能や気分調節に及ぼす影響を精密に評価し、その罹患脆弱性や個人差が生じる生理・分子的基盤を遺伝要因と環境要因の相互作用の視点から明らかにし、睡眠・生体リズムを効果的に調整するための生活習慣の確立とその奏功メカニズム、高齢者の頑健な睡眠機能の生理的意義の解明に資する基盤データを得ることをめざした。20代健常男性10名(平均年齢24.1歳)と60歳以上の健常男性6名(平均年齢66.5歳)を対象として、睡眠覚醒時刻、食事、照度、温湿度などのマスキング要因を統制した隔離実験室内にて、48時間にわたり睡眠(2夜のポリグラフ検査)および生体リズム指標(低照度下メラトニン分泌立ち上がり時刻)の測定ならびに4時間おきに8ポイント末梢血を採取し、メチル化タイピングを行うため各被験者の血液サンプルからゲノムDNAを抽出した。866,895マーカーを搭載するInfinium MethylationEPIC BeadChip キットを用いてマイクロアレイシステムによるゲノム全体のメチル化タイピングを行った。その結果、睡眠・生体リズム調節機能に関わるメチル化領域を同定するため、得られたメチル化量の時系列変化をコサイナー法により解析した。その結果、若年者全員にリズム性が認められた領域は239箇所、高年者全員にリズム性が認められた領域は86箇所であった。
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