研究課題/領域番号 |
16H05382
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 美香子 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20344351)
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研究分担者 |
間賀田 泰寛 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20209399)
久下 裕司 北海道大学, アイソトープ総合センター, 教授 (70321958)
志賀 哲 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (80374495)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Theranostics / 光治療 / 核医学イメージング |
研究実績の概要 |
近赤外蛍光でのイメージングと近赤外光での治療を同時に可能にするPhoto-immuno therapy (PIT)技術は、癌細胞を特異的に死滅させることができる新しいがん治療法であり、現在欧米で臨床試験が進められている。PITは有望なTheranostics (= therapy + diagnosis)法となり得る可能性があるものの、光イメージングでは深部組織のイメージングが困難であり定量性に劣るという欠点がある。さらに、PITの細胞傷害メカニズムが不明であり、生体内でどのような現象を引き起こしているかが判っていない。生体内で引き起こされる現象を把握することが、Theranostics法の確立のために不可欠である。 核医学分子イメージングは、定量性に優れており、また、感度が高く、非侵襲的に生体内分子の変化をとらえることができる。すなわち、インビボでの細胞傷害メカニズム解明とそれに基づく治療効果評価法の確立、および非侵襲的な治療標的の可視化が可能であると考えられる。 本年度は、核医学分子イメージングを利用したメカニズム解明を目指し、細胞レベル・組織レベルでの検討を行った。[3H]H2Oを用いて、PITにより細胞内への水の流入がおこるか定量的に検証したところ、光照射直後に水の流入が起こることが判った。さらに、NaClによって高浸透圧とした培地は、通常浸透圧と比較して取り込みに影響を与えなかった。NaClよりもさらに巨大な分子であるDextranを溶解した高浸透圧培地では、水の取り込みが減少し、非PIT群と同等の取り込みを示した。一方、[15O]H2Oを用いてインビボにて検討した結果、PIT後の水の流入は観察されなかった。[18F]FDGによる検討では、37度では取り込みが低下した。一方、4度ではPIT群ではコントロールに比較しやや細胞への取り込み上昇をみとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、当初予定どおり核医学分子イメージングを利用したメカニズム解明を推進した。すなわち、水はPIT後すぐに流入が完了していることと、PITによって引き起こされる膜障害はDextranのような巨大な分子 (直径3.7 nm) は通過できないが、NaClのような小さな粒子は通過できる程度の大きさであることを示すものであることを見出した。 [18F]FDGは37度ではグルコーストランスポータを介して取り込まれる。4度ではトランスポータが働かず、また、ヘキソキナーゼによる代謝を受けないため細胞内に蓄積しない。すなわち、PITによりATP産生など細胞の機能が停止するが、PITにより細胞膜空いた穴を通して[18F]FDGが流入することを見出した。 また、インビボでの検討から、血管および血流の変化は直後には起こらないことを見出し、さらに、直後の効果判定には[18F]FDGが有用である可能性を見出した。 以上のことから、当初の計画に従い概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度、他のプロジェクトによる検討から、低酸素の部位においてより効果が高くなる可能性が見出された。すなわち、PET用低酸素イメージング剤である[18F]FMISOによる治療効果判定だけでなく、治療前の効果予測が可能である可能性が示された。よって、平成30年度には[18F]FMISOによる検討を進める予定である。癌組織では低酸素になることが知られているが、従来のがん治療では低酸素であることによる治療抵抗性が問題となることが多い。もし、PITが低酸素環境であることによりより効果があることが判れば、さらに画期的な治療法へと発展する可能性が高く、本検討は重要なものとなる。 さらに、[18F]RGD-k5を用いたPETイメージングと組み合わせたTheranosticsを行うための光反応性薬剤のIR700-RDG peptideの合成を進めていく。
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