研究課題
福島県立医科大学先端臨床研究センターにおいてこれまでに実施した測定により、以下の結果が得られた。3テスラ(3T)のMR装置を用いたMR spectroscopy(3T-MRS)の測定では、ヒトが薬物を服用した際の標準的な薬物血中濃度に近い濃度に調整した溶液を充填した「ファントム」の測定において、薬物由来の信号を直接検出することはできなかった。アセトアミノフェンに関しては、アセトアミノフェン標準血中濃度の30~40倍程度の濃度に調整したファントムでは直接信号を検出することができた。上記の所見から、MRSの感度をあと数十倍に高めることができれば、ヒト脳内におけるアセトアミノフェンの信号を直接MRSで検出できる可能性があると推測された。次に、ヒト服用時の標準的な血中濃度に近いジフェンヒドラミン溶液を充填したファントムでも直接信号を検出することはできなかった。ジフェンヒドラミンに関しては、標準的な濃度の1000倍以上の濃度がないと検出が困難であることが示された。以上の所見から、標準用量のジフェンヒドラミンを服用した際のヒト脳内のジフェンヒドラミンを直接MRSで検出するには感度を1000倍以上に高める必要があることが必要と考えられ、実現は困難であると考えられた。これらの結果を受けて、脳内に分布した薬物自体を3T-MRSで検出することは現時点では技術的に困難であると考えた。本研究プロジェクトでは、むしろ薬物内服以後の種々の脳内代謝物濃度の経時的変化を追跡して、薬物血中濃度の経時的変化との関連性を吟味することを主たる目標とした。実際には数名の健常被験者を対象として、アセトアミノフェン300mgの内服後に約3時間にわたり、ジフェンヒドラミン50mgの内服後では約5時間にわたり、3T-MRSを用いた追跡測定を行った。種々の代謝物の経時的変化のデータを収集することができた。
3: やや遅れている
本研究の進捗が遅れていることの主な原因は、測定施設となっている福島県立医科大学先端臨床研究センターにおけるマシンタイムの確保のための相談と調整に予想以上に時間がかかってしまったことにあると考えている。また、施設使用料金に関して、科研費申請時に示されていた金額に比べて、実際の使用料が約2倍になってしまったため、当初計画していた測定の全てを完了させることができなくなった。当初は、MRS測定と並行して被験者から収集した血液検体の薬物濃度測定を行うことを予定していたが、実際には、予算が大幅に不足してしまい、やむを得ず、薬物血中濃度の測定を次年度に持ち越すこととした。
これまでの福島県立医科大学先端臨床研究センターにおける測定により、3テスラ(3T)のMR装置を用いたMR spectroscopy(MRS)の感度では、服薬した薬物自体の脳内濃度の推移を追跡するには測定感度が不十分である可能性が高いことが示された。今後は、脳内薬物濃度以外のMRS測定パラメーターのうちで血中の薬物濃度の変化と強い相関をもって変化するパラメーターを見出すことを目標としていく。また、これまでに実施されたMRS測定試験で得られた血液データを用いて薬物血中濃度の測定を行い、薬物血中濃度と脳内MRSデータの経時的変化との関連性を探ることを計画している。薬物血中濃度と有意に相関する変化を示すようなMRS測定パラメーターがないかどうかを探索する。さらに、平成30年度は、3Tのみならず、岩手医科大学超高磁場先端MR研究センターにおけるヒトの測定用としては最強磁場を誇る7TのMR装置を用いたMRS測定(7T-MRS)の結果の検討を進める。まずは福島県立医科大学での測定に使用したファントム(ジフェンヒドラミンとアセトアミノフェンの濃度が既知の物体)を測定対象に用いて、両者の結果を比較する。7Tの感度では、3T装置の場合とどれぐらい検出力が異なるかを検討して、感度を高めることによって期待できる効果とそのための方策について考察を進める計画である。そして平成30年度には、PET測定の結果とMRS測定の結果の関連性を調べる計画であるが、①MRSで脳内薬物濃度のピークを特定する方法が確立できていないことと、②総予算が不足していることにより、11C-doxepin PETの代わりに、より低い費用で実施できるFDG-PETも実施し、60分間のダイナミックPETデータへの影響を評価する計画である。
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