研究課題
福島県立医科大学先端臨床研究センターおよび東北大学サイクロトロン・RIセンターにおいて実施した測定により、以下の結果が得られた。3テスラのMRS(3T-MRS)の測定結果により、3T-MRSを用いて脳内に分布した薬物自体の信号を検出するのは技術的に困難と考え、薬物内服以後の脳内代謝物濃度の経時的変化を追跡して、薬物血中濃度の経時的変化との関連性を吟味した。健常被験者を対象としてアセトアミノフェン300mgの内服後に約3時間にわたり、3T-MRSを用いて追跡測定を行った。加えて、健常被験者を対象としてジフェンヒドラミン50mgの内服後約5時間にわたり、3T-MRSを用いて追跡測定を行った。その結果、数多くの代謝物のうち、アセトアミノフェン服用後にはグルタミン+グルタミン酸やN-アセチルアスパラギン+N-アセチルアスパラギングルタメートなどの濃度が増強することが示された。加えて、ジフェンヒドラミン内服後にはアセトアミノフェン服用後にはグルタミン+グルタミン酸やN-アセチルアスパラギン+N-アセチルアスパラギングルタメートなどの濃度が増強することが示された。加えて、MRS測定結果も参考にしつつ、抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミン服用時の脳PET画像への影響を多面的に調べた。当初予定していた[11C]doxepin PETの実施は、MRSデータと薬物血中濃度のデータが全て揃わないと実施できないため、比較的低コストで実施できる[18F]FDG PETを用いた検討を進めた。抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン服用後の脳内の状態を評価するために、[18F]FDG PETを用いたdouble injection法は有用と考えられるが、その評価のための基礎測定を行った。検討の結果、double injection法を用いて抗ヒスタミン薬の脳への影響を評価することが可能と考えられた。
3: やや遅れている
本研究の進捗が遅れていることの主たる原因は、当初、東北大学大学病院倫理委員会における審査に予想外の時間がかかってしまったことと考えられた。そのため、平成28年度予算を繰り越して準備を進めた。加えて、東北大学の倫理委員会の承認が得られたあとも、測定施設となっている福島県立医科大学先端臨床研究センターにおけるマシンタイムの確保のための相談と調整に予想以上の時間がかかってしまったことも大きな原因であったと考えている。当初予定していたMRS測定が実施できるまでに約2年を要したが、この度、ようやくMRS測定が実施でき、徐々に遅れを取り戻しつつある状況である。また、薬物血中濃度の測定も平成29年度中の実施を予定していたが、予算が大幅に不足してしまい、やむを得ず薬物血中濃度の測定を平成30年度に持ち越すこととなった。予算不足となった理由としては、科研費申請時および交付時に福島県立医科大学先端臨床研究センターの分担研究者から連絡を受けていた施設使用料金(時間単価)が、最終的には約2倍になってしまったことが挙げられる。そのため、計画していた測定の全てを完了させることができず、一部を次年度に実施せざるをえなくなった。
これまでの福島県立医科大学先端臨床研究センターにおける測定により、3テスラ(3T)のMR装置を用いたMR spectroscopy(MRS)の感度では、服薬した薬物自体の脳内濃度の推移を追跡するには測定感度が不十分である可能性が高いことが示された。今後は、脳内薬物濃度以外のMRS測定パラメーターのうちで血中の薬物濃度の変化と強い相関をもって変化するパラメーターを見出すことを主たる目標としていく。また、これまでに実施されたMRS測定試験で得られた血液データを用いて薬物血中濃度の測定を行い、薬物血中濃度と脳内MRSデータの経時的変化との関連性を探ることを計画している。薬物血中濃度と有意に相関する変化を示すようなMRS測定パラメーターがないかどうかを探索する。さらに、平成30年度は、3T-MRSのみならず、岩手医科大学超高磁場先端MR研究センターにおけるヒトの測定用としては最強磁場を誇る7TのMR装置を用いたMRS測定(7T-MRS)の結果の検討を進める。まずは福島県立医科大学での測定に使用したファントム(ジフェンヒドラミンとアセトアミノフェンの濃度が既知の物体)を測定対象に用いて、両者の結果を比較する。7Tの感度では、3T装置の場合とどれぐらい検出力が異なるかを検討して、感度を高めるための方法論としての今後の可能性について考察を進める計画である。そして平成30年度は、PET測定の結果とMRS測定の結果の関連性を調べる計画であるが、①MRSで脳内薬物濃度のピークを特定する方法が確立できていないことと、②総予算が不足していることにより、[11C]doxepin PETと合わせて、より低い費用で実施できる[18F]FDG-PETも実施し、60分間のダイナミックPETデータへの影響を評価する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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