研究課題
これまでの福島県立医科大学先端臨床研究センターにおける測定により、3テスラ(3T)のMR装置を用いたMR spectroscopy(MRS)の感度では、服薬した薬物自体の脳内濃度の推移を追跡するのは測定感度が不十分で技術的に困難であることが示された。次いで、岩手医科大学の超高磁場先端MR研究センターの7テスラ(7T)の高磁場MR装置に福島医科大学で測定したものと同一のファントムを持ち込んでMRS測定を行った。しかし、ファントム中の薬物の検出は困難であった。総合的に評価すると、ヒトにおける生理的濃度よりも高く調整した高濃度サンプル内の薬物分子は、3T-MRSでは比較的良好に測定できていたが、7T-MRSでは測定効率はむしろ低下した。以上の所見から、7T-MRSは高磁場により感度が高くなっているものの、検出感度の大幅な向上は期待できず、MRSを用いた微量物質検出に用いるためには信号検出やノイズ除去等を含む測定方法の最適化が必要であると考えられた。現時点での結論としては、ヒト脳における微量物質の検出を行う場合、3T-MRSが適していると考えられた。さらに、本年度は、FDG-PETを実施して、60分間のダイナミックPETデータへの影響を評価した。脳内の代謝動態においてジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン薬の影響は認められたが、その変化は小さく、プラセボ条件に比べて有意な差を検出するのは困難と考えられた。脳のブドウ糖消費量の定量も行ったが、脳全体のブドウ糖消費量に関して薬剤間の有意差は認められなかった。脳のブドウ糖消費量という指標に注目した場合、薬剤間で差が見られるのは、安静時よりもむしろ認知課題などの負荷がかかった場合であることも示唆された。抗ヒスタミン薬服用時はプラセボ服用時に比べて、抗ヒスタミン薬服用時にはより多くのブドウ糖消費が起こることが観察された。
3: やや遅れている
本研究の進捗が遅れていることの主たる原因は、当初、東北大学大学病院倫理委員会における審査に予想外の時間がかかってしまったことと考えられた。そのため、平成28年度予算を繰り越して準備を進めた。加えて、東北大学の倫理委員会の承認が得られたあとも、測定施設となっている福島県立医科大学先端臨床研究センターにおけるマシンタイムの確保のための相談と調整に予想以上の時間がかかってしまったことも大きな原因であったと考えている。当初予定していたMRS測定が実施できるまでに約2年を要したことがことが最大の理由である。また、薬物血中濃度の測定も平成29年度中の完了を予定していたが、予算が大幅に不足してしまい、やむを得ず薬物血中濃度の測定を翌年度以降に持ち越すこととなった。予算不足となった理由としては、科研費申請時および交付時に福島県立医科大学先端臨床研究センターの分担研究者から連絡を受けていた施設使用料金(時間単価)が、最終的には約2倍になってしまったことが挙げられる。その結果、残りの検体の薬物血中濃度の測定を平成30年度に計画したが、PET測定の費用と合わせるとどうしても不足してしまい、平成31年度にまとめて測定する方針とせざるをえなかった。平成31年度には全ての情報が揃う見込であるため、それらを総合して考察をさらに深める予定である。
これまでの福島県立医科大学先端臨床研究センターの3T-MRSおよび岩手医科大学超高磁場先端MR研究センターの7T-MRSを用いて測定した結果、現段階では、3T-MRSのほうが臨床測定への最適化が進んでいるものと考えられた。こうした総括結果は将来の関連プロジェクト実施の参考になる情報と期待される。今年度は、ヒト測定で得られた残りの血液検体の測定を完了させる計画であり、それにより、測定結果が全て揃うことになる。今後は全てのデータを総合的に解析して、脳ブドウ糖消費量の指標も加味して、脳内代謝物のMRSパラメーターのうちで投与薬物の血中濃度の変化と強い相関をもって変化するパラメーターを見出すことを目標とする。これまでに実施されたMRS測定試験で得られた血液データを用いて薬物血中濃度の測定を行い、薬物血中濃度と脳内MRSデータの経時的変化との関連性を探ることを計画している。薬物血中濃度と有意に相関する変化を示すようなMRS測定パラメーターがないかどうかを探索することを目指す。また、今年度は、本研究の最終年度として、研究の総括を行い、学会発表および論文執筆を進める計画である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Ann Nucl Med.
巻: 33 ページ: 459-470
10.1007/s12149-019-01353-w
Radiol Phys Technol.
巻: 11 ページ: 451-459
https://doi.org/10.1007/s12194-018-0485-y
Med Phys.
巻: 45 ページ: 4693-4703
https://doi.org/10.1002/mp.13124
PLoS One
巻: 13 ページ: e0199698
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0199698
Acta Neuropathol Commun.
巻: 6 ページ: 53
https://doi.org/10.1186/s40478-018-0556-7
Tohoku J Exp Med.
巻: 245 ページ: 13-19
https://doi.org/10.1620/tjem.245.13