研究課題/領域番号 |
16H05387
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坪井 康次 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90188615)
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研究分担者 |
伊藤 敦夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (30356480)
榮 武二 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60162278)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射照射治療 / 免疫原性細胞死 / SAHA / メソポーラスシリカ / アブスコパル効果 |
研究実績の概要 |
1)SAHA(Suberovlanilide Hydroxamic Acid)の放射線増感効果 ヒストン脱アセチル化酵素SAHAの正常ヒト線維芽細胞AG1522および肺がん細胞株A549に対する放射線増感効果を検討した。放射線は、ガンマ線、陽子線および炭素イオン線を用いた。その結果、高い濃度のSAHAはA549(肺がん細胞)に対するガンマ線、陽子線、および炭素イオンの放射線増感効果を示したが、AG1522(正常線維芽細胞)に対しては増感効果を示さなかった。また、SAHAの増感効果は炭素イオン線よりもγ線と陽子線照射で顕著であった。さらに、SAHAは放射線によるDNA損傷の修復を遅らせることも明らかになった。このようにSAHAはがん選択的に放射線増感効果を示すことが示され、陽子線との併用で最もその効果が見込めることが示された。
2)メソポーラスシリカのアジュバント効果 新規免疫アジュバント“メソポーラスシリカ(HMS)”が放射線照射による大腿皮下腫瘍の治癒を促進し、より効率的にアブスコパル効果を起こすかどうか検討した。GL261(マウス神経膠腫)細胞を同系C57BL/6マウスの大腿皮下に移植し、X線(16Gy)照射した後、HMSを局所投与して治癒効果を検討した。その結果、X線照射の後HMSを1週間おきに3回投与すると、腫瘍の増殖はX線照射単独より遅延する傾向が認められた。さらにHMSを6回投与することにより、有意な腫瘍増殖抑制効果と頭蓋内腫瘍の拒絶が認められた。HMSをX線照射と併用することにより、腫瘍の治癒率が向上し、脳におけるアブスコパル効果を増強させることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)SAHA (Suberovlanilide Hydroxamic Acid)の放射線増感効果 ヒストン脱アセチル化酵素SAHAはA549(癌細胞)に対するガンマ線、陽子線、および炭素イオンの放射線増感効果を示したが、AG1522(正常細胞)に対しては増感効果を示さなかった。また、SAHAの増感効果は炭素イオン線よりもγ線と陽子線照射で顕著で、放射線によるDNA損傷の修復を遅らせることが明らかにされた。これらの結果が得られたことから、進捗状況ほぼ当初の予定通りであり論文も掲載された。
2)メソポーラスシリカのアジュバント効果 大腿皮下腫瘍へのX線照射の後、HMSを1週間おきに3回投与すると、腫瘍の増殖がX線単独より遅延する傾向が認められた。さらに6回投与することにより、有意な腫瘍増殖抑制効果と頭蓋内腫瘍の拒絶が認められたので、研究を始めた当初の仮説を裏付ける結果が得られた。現在、これまでの成果を論文化しており、進捗状況は予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
1)SAHA (Suberovlanilide Hydroxamic Acid)の放射線増感効果 ヒストン脱アセチル化酵素SAHAは癌細胞に対するγ線と陽子線照射を増強し、DNA損傷の修復を遅らせることが明らかになったが、今後はこのようなSAHAのがん細胞選択的放射線増感効果のメカニズムを明らかにする方針である。また、すでに臨床で使われている薬剤であり、今後はがんに対する放射線増感剤としての臨床研究に橋渡しすることを目指す方針である。
2)メソポーラスシリカ(HMS)のアジュバント効果 HMSの放射線照射に対するアジュバント効果はHMSがメソ孔に腫瘍抗原を吸着させ、貪食細胞に取り込まれることによって、抗原提示を促進したことによると推定している。今後はそのメカニズムを明らかにするとともに、頭頸部がんを対象とした臨床研究への橋渡しを目指す方針である。
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