研究課題/領域番号 |
16H05395
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
向 高弘 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (30284706)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬学 / 放射線 / 癌 / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体適合性が高くかつ細胞移行性に優れた自己組織化ナノ粒子製剤の分子設計を応用し、がんの分子イメージングと同時に内用放射線治療を可能とするラジオセラノスティックナノデバイスを開発することである。以下の項目を検討することにより、安全性、生産性に優れたナノ粒子製剤の開発を目指す。①生体適合性が高く優れた物理化学的・製剤学的性質を有する自己組織化ナノ粒子を見出す。②各種のがん細胞へ特異的な集積を示す新規自己組織化ナノ粒子を開発する。③自己組織化ナノ粒子の細胞内挙動、生体内動態、がん治療効果を評価し、有効性を検証する。
当該年度は、キレート剤であるDTPAを導入した第4世代のポリアミドアミンデンドリマー(G4)(DTPA-G4)を中心に、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアニオン(γ-ポリグルタミン酸、コンドロイチン硫酸、フコイダン、ヒアルロン酸)を静電的相互作用により自己組織化させたナノ粒子を合成した。いずれの粒子もサイズは約30~50nm、ゼータ電位は約-50mVであった。続いて、In-111標識DTPA-G4を合成し、これらを用いて反応させ、高い放射化学的純度で自己組織化ナノ粒子を調製することに成功した。続いて、特にコンドロイチン硫酸の被膜をもつナノ粒子について、マウスメラノーマ細胞を用いた細胞取込み実験を実施した結果、負電荷を持つにもかかわらず高い細胞内取込みを示し、また、コンドロイチン硫酸に特異的な経路で取込まれることを示した。さらに、健常マウスを用いて生体内分布を評価した結果、肝臓、脾臓、肺などの組織に高い取込みが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、静電的相互作用を利用して、アニオン性であるキレート剤結合デンドリマー(DTPA-G4)をコアとして、ポリカチオンであるPEI、ポリアニオンを順次反応させたナノ粒子を構築し、その放射性標識体の合成に成功した。 コンドロイチン硫酸を被膜に持つ粒子については、表面電荷は負であり、負に帯電する細胞膜との静電的な反発が予想されたにもかかわらず、がん細胞への高い取込みを示した。また、その取込みは、コンドロイチン硫酸の同時添加により、濃度依存的に阻害されたことから、コンドロイチン硫酸特異的な取込み経路の存在が示唆された。さらに、健常マウスにおける体内動態を評価し、投与後早期における肝臓や脾臓などの細網内皮系への取込みが示された。 以上、当該年度は、静電相互作用を利用して自己組織化させたナノ粒子のインビトロ、インビボ評価を進め、がん組織へ集積する可能性を持つ候補化合物を見出した。よって、本研究課題は順調に進展していると評価できる。また、これらの成果は、国内学会にて4件報告した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、特にコンドロイチン硫酸の被膜を持つナノ粒子について、細胞内への取込み機構について詳細に評価するとともに、臓器摘出法を用いて担がんマウス(皮下移植、肺がん転移モデルなど)における腫瘍集積性を評価する。また、他のナノ粒子(γ-ポリグルタミン酸、フコイダン、ヒアルロン酸被膜)についてもインビトロ細胞取込み評価および生体内分布(健常マウス、担がんモデルマウス)の評価を進める。さらに、カチオン性リポソーム等のデンドリマー以外のコアを持つナノ粒子についても、検討を進める予定である。 以上の検討を踏まえて、がん組織標的性が示された放射性標識ナノ粒子について、イメージング実験により核医学診断の可能性を探るとともに、Y-90などの治療用放射性同位元素を用いて標識したプローブを用いて、がん治療の可能性についても検討する。また、必要に応じて、粒子に対して化学修飾、製剤修飾を行い、より実用性の高いナノ粒子を構築する。 以上より、静電相互作用を利用した自己組織化ナノ粒子のがんを標的としたラジオセラノスティックスプローブとしての有用性を総合的に評価する。
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