研究課題/領域番号 |
16H05399
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
篠原 尚 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70319549)
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研究分担者 |
坂井 義治 京都大学, 医学研究科, 教授 (60273455)
高井 昭洋 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (70632917)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 微細解剖 / 食道胃接合部解剖 / 肛門管前壁解剖 / infracardiac bursa / 横紋筋 / 平滑筋 / Cadaver / 3Dシミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では未だ確立されていない内視鏡手術に必要な外科解剖を明らかにすることを目的としている。具体的には男性の肛門管前壁における横紋筋と平滑筋の立体筋構造と食道胃接合部の右側に存在する閉鎖腔(infracardiac bursa)の解剖を解明することに取り組んでいる。H28年度には解剖体の各スライス(水平断、矢状断、前額断)を作成する方法を確立することでまず肉眼解剖を細かく観察した。さらに、スライスされた解剖体の標的部位を組織切片とし、染色することで目的部位の組織学的な評価を行った。H29年度には骨盤底解剖では解剖体から得られたデータと臨床画像(3D-T2 MRI)を照合し、患者個々の肛門管周囲の筋構造を抽出することで、術前の3Dシミュレーション画像の作成が可能となった。食道胃接合部解剖では解剖学的知見に加え、京都大学先天異常標本解析センター所蔵のヒト胚子・胎児標本(Kyoto collection)を観察することで閉鎖腔の正体がinfracardiac bursaであることを確認した。これらの知見に食道亜全摘術の手術動画を照らし合わせることで手術に有用な解剖図の作成に取り組んだ。H30年度はいままでに得られた解剖学、画像解析、発生学、外科学の知識をリンクすることで新たな局所解剖図の完成とそれに基づいた手術手技の提案を行う。さらには論文化と結果公表によって外科医の間で知識の共有を図ることを目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究において、骨盤底解剖では、男性の肛門管前壁を横紋筋と平滑筋の構造から4つのレベル(肛門側から、横紋筋が前方に突出し球海綿体筋の尾側に伸びる(i)皮下外括約筋レベル、球海綿体筋と会陰横筋、外括約筋が交錯する(ii)外括約筋レベル、横紋筋が1時から11時方向まで亜全周性に直腸を取り囲み、12時方では直腸縦走筋から連続する平滑筋(直腸尿道筋)が尿道後方に広がる(iii)恥骨直腸筋レベル、そしてNVBが1時11時方向を走行する(iv)前立レベル)に分けることで複雑な立体筋構造を理解しやすくなり、手術に応用できることがわかってきた。また、食道胃接合部解剖では、infracardiac bursaが成人の生体においても胎児同様に食道右側1/3周かつ横隔膜右脚の頭側に位置し、その内腔が中皮で覆われていることが解明された。これらの知見から当初の目的である内視鏡手術に有用な新たな解剖図を作成・公表する段階になっているためおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
骨盤底解剖においては、横紋筋と平滑筋構造から男性の直腸前壁構造を4つのレベルに分けることで新たな手術方法の提案を行っていくとともに培ってきた画像解析技術を応用して、直腸癌の側方リンパ節郭清の3Dシミュレーション画像の作成や、セグメンテーションを自動化する技術にも着手し、今後のさらなる研究への土台作りを行っていく。食道胃接合部解剖においては新たな解剖図からinfracardiac bursaをより正確に捉えることで、ランドマークが少なくリンパ領域の境界が不明瞭である下縦隔リンパ郭清において、infracardiac bursaがNo.110とNo.111のリンパ境界としてのランドマークとなるか検討していく。また左側に同様の閉鎖腔ができないことやこの微細解剖を理解する手助けとして発生学的にinfracardiac bursaの形成過程を再評価する。
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