研究実績の概要 |
本研究では臓器横断的な消化器解剖図の作成をテーマに,とくに①食道間膜,②食道胃接合部(以下; EGJ),③肛門管前壁における内視鏡手術に必要な微細解剖の解明を行ってきた。 ①については,胸腔鏡およびロボット支援下の精細な手術画像をもとに食道周囲の反回神経,気管との微細解剖を明らかにすることで「Mesoesophagus」の図化を完成させ,論文発表した。②については, 手術の際にEGJの右側で遭遇する閉鎖腔が, 網嚢の発生過程において分離される心臓下包(infracardiac bursa,以下ICB)という空間と解剖学的な位置関係が一致することを胎児の切片とMRIで確認し, また成人Cadaverにおいてはその閉鎖腔が食道裂孔から心嚢のレベルに存在し, 内腔が中皮で覆われていることを前年度までに示してきた。 本年度は手術標本の閉鎖腔も組織学的に内腔が中皮で覆われていることを示し, 手術ビデオをもとに閉鎖腔(=ICB)の局所解剖を正確に示した解剖図を作成した。 またこの解剖図をもとに手術を行うことでICBの同定率は69%から94%に上昇し, ICBはほぼ全例に存在する微細解剖であることが示唆された。当初の目的を達し, これらの知見を論文発表し, 国際学会においても情報を発信した。 ③男性の直腸癌手術で問題となる尿道損傷や腫瘍マージン陽性を回避するために,Cadaverと患者MRI画像を用いて横紋筋と平滑筋の構造に焦点を当て構造を解明してきた。これらの解剖所見に基づいて,肛門管前壁構造を4つのレベルに分け,各レベルでの切離方法を提案し,国内外の学会で発表した。直腸と境界のない直腸尿道筋の切離には尿道損傷に注意する必要があることを強調した(論文投稿中)。現在,より確実に尿道損傷を予防するために発光ファイバーを用いて術中に尿道を可視化する臨床研究を立案し,症例集積中である。
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