研究実績の概要 |
本研究では、iPS細胞作製技術を応用して、ヒト人工組織特異的幹細胞(induced tissue-specific stem cells: iTS細胞)を樹立することを目的としている。われわれの研究室では、山中因子をそれぞれの組織に一過性発現させ、組織特異的幹細胞のマーカーで細胞を選択することにより、マウス膵幹細胞および、マウス肝幹細胞を人工的に作製することに成功している(Cell Death Differ (IF 8.184)に報告)。この細胞の利点は1)樹立効率がiPS細胞よりも高い、2)分化誘導効率がES/iPS細胞より高い、3)奇形腫形成がなくES/iPS細胞で懸念された未分化細胞残存による腫瘍形成の心配がない、の3点である。 これらのデータを背景に、平成28年度はヒト膵組織を用いてiTS-P細胞を樹立することが可能であるかどうかの検討を行った。共同研究施設であるアルバータ大学から膵組織を送っていただき(琉球大学臨床研究倫理審査委員会 承認番号809)、山中因子を発現するプラスミドを用いてiTS-P細胞の樹立を試みた。OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYCの4因子ではヒトiTS-P細胞の樹立は困難である一方、OCT3/4, SOX2, KLF4, p53shRNA, L-MYC, LIN28の6因子であればマウスiTS-P細胞と形態がよく似た細胞群が認められることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
<平成29年度計画:ヒト人工肝幹細胞の樹立> われわれの研究室では、山中因子の発現するプラスミドを用いて、マウス肝組織からiPS細胞とともにiTS-L細胞の樹立にも成功した。この細胞群は樹立効率がiPS細胞より高く、奇形腫形成が認められなかった。さらに肝細胞への分化誘導を行ったところ、ES細胞から分化誘導を行った場合の6倍高いアルブミンの遺伝子発現が認められた。これらのデータを背景に、本研究で、ヒトiTS-L細胞が安定して樹立できる手技を確立することを目的とする。ヒト肝細胞の入手方法であるが、いくつかの企業からヒト肝細胞が販売されているため(例:タカラバイオ、製品コードC-12850)、販売されている細胞を購入し使用する予定である。 <平成30年度計画:膵ベータ細胞、肝細胞への分化誘導、およびモデルマウスへの移植> iTS-P細胞からインスリン分泌細胞への分化誘導は2014年にハーバード大学のMelton研究室から報告された方法を用いる(Cell 2014, 159, 428-439)。iTS-L細胞から肝細胞への分化誘導は研究代表者の共著論文(Nat Biotech 2006, 24, 1412-1419)に報告されている方法を用いる予定である。分化誘導を行った細胞は、糖尿病モデルマウスの腎被膜下、および90%肝切除を行った急性肝不全モデルマウスの脾臓への移植により評価を行う。研究代表者は、これらの分化誘導法および移植実験を数多く経験しており、手技的な問題はない。
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