研究課題/領域番号 |
16H05409
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武冨 紹信 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70363364)
|
研究分担者 |
高橋 典彦 北海道大学, 大学病院, 准教授 (30399894)
本間 重紀 北海道大学, 大学病院, 助教 (30533674)
谷野 美智枝 北海道大学, 医学研究院, 講師 (90360908)
北村 秀光 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (40360531)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 炎症性腸疾患 / 潰瘍性大腸炎 / クローン病 / 神経ペプチド / 神経ペプチド受容体 / STAT1 / マクロファージ / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
本邦において、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの炎症性腸疾患の発症・重篤化メカニズム解明と炎症・免疫担当細胞の機能制御による疾患治療法開発への応用は重要な課題の一つである。本研究で、炎症性腸疾患の病態発症・重篤化における神経ペプチド受容体NK2Rを介した炎症・免疫制御メカニズムの解明をヒト臨床検体やマウス大腸炎モデルを使用して行った。 まず健常人末梢血単球由来樹状細胞に対してIFN-α/βやIFN-γあるいはpolyI:C刺激によりNK2Rが発現誘導されること、このNK2R遺伝子の発現増強がSTAT1阻害剤存在下で抑制されることを確認した。またUCおよびCD患者検体を使用し、神経ペプチド受容体の発現を免疫組織化学染色法により検討した結果、病変組織へのマクロファージ・樹状細胞の浸潤とSTAT1の活性化およびNK2Rの発現を確認した。次に、DSS誘発マウス大腸炎モデルを構築して検証した結果、病態の発症においてマクロファージが関与すること、病変組織においてSTAT1が活性化すること、またSTAT1欠損条件において病態の軽減が認められた。さらに病変組織における炎症・免疫細胞において、炎症性サイトカインの産生誘導がSTAT1欠損下において軽減していることも確認した。神経ペプチドシグナルと炎症性腸疾患との関連性について明らかにするために、NK2R阻害剤をDSS誘発大腸炎モデルに投与した結果、部分的に病態を軽減する結果を得た。 以上の結果から、神経ペプチドシグナルによる炎症・免疫機能の制御が、実際にマウス大腸炎モデルにおいても認められたことから、今後、その詳細な作用メカニズムの解明を行なうとともに、炎症性腸疾患患者の病態との関連について検証を行なうことで、神経ペプチドシグナルの制御による、新規炎症性腸疾患治療法の開発に繋がる科学的エビデンスが得られるものと考えられる
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、健常人よりヒト末梢血を採取し、in vitro 培養系にて単球由来樹状細胞、あるいは抗原特異的T 細胞を誘導し、各種サイトカインやpoly I:Cなど各種刺激およびミミック分子や阻害剤などの存在下で共培養を行なった。その結果、IFN-α/βやIFN-γあるいはpolyI:C刺激によりHLA クラスII、副刺激分子、さらにNK2Rの細胞表面発現レベルが転写活性化因子の一つであるSTAT1依存的に制御されていることを見出した。次に、潰瘍性大腸炎やクローン病患者の病変組織における各種免疫細胞の浸潤とSTAT1および神経ペプチド受容体NK2Rの発現について、免疫組織化学染色により解析したところ、マクロファージおよび樹状細胞の浸潤とSTAT1の活性化およびNK2Rが病変組織に発現していることを確認した。また、マウスDSS 誘発大腸炎モデルについてSTAT1欠損条件やマクロファージや樹状細胞の除去により病態が改善されることを確認した。さらに神経ペプチド受容体NK2Rのアンタゴニストを投与することで病態が改善される効果を示唆するデータが得られた。またマクロファージ細胞株や大腸炎モデルマウスから回収したマクロファージにおいて、STAT1シグナルの阻害あるいは欠損下において代表的な炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6の産生誘導が抑制されていることも確認した。従って、STAT1およびNK2Rを介した神経ペプチドシグナルカスケードを標的とする新しい炎症性腸疾患の治療法の開発が期待される。 以上の結果から、今後、神経ペプチドシグナル下流標的分子の同定、マウス治療モデルでの有効性の検証やヒト患者の病態との詳細な比較検討を行うことで、実際にヒト臨床応用が見込まれる、非常に有望な成果・エビデンスが蓄積されているものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までに得られた研究成果を基に、STAT1/NK2Rを介した神経ペプチドシグナルカスケードを標的とした、難治性炎症性腸疾患治療の有効性を証明する実験を行なう。具体的には、DSS誘発大腸炎マウスモデルを使用し、エフェクター・パソジェニック細胞の探索、STAT1/NK2Rを介したシグナル下流・関連分子の同定と炎症性腸疾患の病態発症メカニズムの解明を行う。また本検討で病態への関与が示されたNK2RおよびSTAT1の阻害剤、また下流・関連分子の阻害剤、中和抗体あるいは各種ノックアウトマウスを使用して、大腸炎の発症・重篤化への関与を検証するとともに、病態軽減への作用効果を確認する。 次に大腸炎治療マウスモデルを駆使し、一般的に標準治療として使用されている抗炎症薬、免疫制御剤の投与を行い、この過程で神経ペプチドシグナルによるマクロファージ・樹状細胞の機能制御を介した炎症応答、免疫応答の詳細なメカニズムの解明を行うとともに、前述のSTAT1/NK2Rを介した神経ペプチドシグナルを標的とする薬剤との併用治療を行なう。これらの研究成果をもとに、実際の潰瘍性大腸炎やクローン病などの難治性炎症性腸疾患に対する治療において、より有効な条件・方策を見出す。 さらに、ヒト臨床検体を蓄積し、神経ペプチドシグナル関連分子と炎症性腸疾患患者の病態との関係を検証する。ここで神経ペプチドシグナルと関連し、被験者の病態や炎症・免疫状態を解析・評価することができる新規バイオマーカーの探索を行い、炎症性腸疾患治療の選択、判断基準に有用であることを明らかにする。 以上のマウス生体モデルおよびヒト臨床検体を使用した検証で得られる結果をもとに、神経ペプチドシグナルを標的とした炎症性腸疾患に対する治療の有効性を示すことで、最終的に、より効果の高い新規治療の開発に繋ぐ科学的エビデンスを蓄積する。
|