研究課題
膵管癌と胆管癌は、その発生部位が近接しておりどちらも腺癌に分類されるという類似点はあるが、予後が大きく異なること、転移進展様式が異なることなど、本当に類似した癌かどうかは明らかではない。また、膵では粘液産生が特徴な膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)が存在し異なる病態を示すのと同様に、胆道では胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)が提唱されている。しかし、IPMNとIPNBの発生機序が類似しているかどうかは明らかではない。申請者らは本科学研究費補助金を申請する4年間において、膵管癌と胆管癌およびIPMNとIPNBを、遺伝子レベル~蛋白レベルでの相違点を明らかにし、膵管癌と胆管癌の発癌機序の解明とそれに基づく新規治療法の開発を行おうとするものである。平成28年度には、膵管癌と胆管癌のホルマリン固定パラフィン包埋組織からレーザーマイクロダイセクションにより癌細胞を選択的に回収し、LC/MS/MSを用いて網羅的プロテオーム解析を行った。対象となる膵管癌10例と胆管癌8例を抽出した。平成29年度には、これら両群の発現タンパク質プロファイルを、スペクトラルカウント法およびG検定を用いて、最終的に15のバイオマーカー候補タンパク質を同定した。さらに大量の試料を免疫組織化学的検証を行うための準備として、まず膵頭部癌12症例と遠位胆管癌12症例の検体を検証し、両群で発現に差を認めるタンパク質を5タンパク質を絞り込んだ。さらに両群それぞれ80検体を用いて、大規模検証群の免疫染色を行い、同5タンパク質のバイオマーカーとしての妥当性を検討した。並行して、臨床現場で、実際に診断が困難であった症例を用いても、同バイオマーカー、バイオマーカーパネルの有用性を検討した。平成31年度は、IPMNおよびIPNBの遺伝子解析、プロテオミクス解析、免疫染色を中心として取り組む予定であり、準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
胆管癌と膵管癌との相違に関しては、プロテオミクス解析から膵頭部癌と遠位胆管癌から発現していた1,820種類のタンパク質に対して、半定量比較解析法とG検定を行い、膵頭部癌で有意(p<0.01)に発現を認める5種類のタンパク質、遠位胆管癌で有意に発現を認める10種類のタンパク質を絞り込んだ。本結果をもとに研究協力者である竹浪(東北大学大学院医学系研究科・大学院4年生)が論文を作成し発表した。(Takenami T et al. Novel biomarkers distinguishing pancreatic head Cancer from distal cholangiocarcinoma based on proteomic analysis, BMC Cancer 19. 318)。
最終年度の平成31年度は、IPMNおよびIPNBの遺伝子解析、プロテオミクス解析、免疫染色を中心として取り組む。すでに37例のIPNB症例の標本を入手しており、FFPE組織からLaser Microdissection (LMD)にて腫瘍部を選択的に獲得し、QIAGEN社 QIAamp DNA Mini Kitを用いてDNAを抽出する. DNA解析については,他施設との共同研究を予定しており,その施設に導入されているIon S5 system(Thermo Fisher ScientificThermo-Fisher社)を用いて胆管腫瘍用遺伝子カスタムパネルの設計と Next-Generation Sequencing (NGS) 解析を行っていく予定である。 症例を増やして免疫染色などを追加し、IPNBに特異的な遺伝子変異、蛋白発言を同定する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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