研究実績の概要 |
膵管癌と胆管癌は、その発生部位が近接しておりどちらも腺癌に分類されるという類似点はあるが、予後が大きく異なること、転移進展様式が異なることなど、本当に類似した癌かどうかは明らかではない。また、膵では粘液産生が特徴な膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)が存在し異なる病態を示すのと同様に、胆道では胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)が提唱されている。しかし、IPMNとIPNBの発生機序が類似しているかどうかは明らかではない。申請者らは本科学研究費補助金を申請する4年間において、膵管癌と胆管癌およびIPMNとIPNBを、遺伝子レベル~蛋白レベルでの相違点を明らかにし、膵管癌と胆管癌の発癌機序の解明とそれに基づく新規治療法の開発を行おうとするものである。 平成30年年度までに行ってきた胆管癌と膵管癌を比較する網羅的プロテオーム解析から、KRT17, ANXA10, TMEM109, PTMS, ATP1B1 蛋白が両者で発現パターンが異なっており、鑑別に有用であることをBMC Cancer (Takenami T et al. BMC Cancer 19, 2019)に報告した。 一方、これまでその分子的基盤が不明であった胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)の遺伝子解析を行った。近年IPN-Bはtype1とtype2に亜分類されることが提案されているが、それぞれの遺伝子を解析した結果、type1ではKRASおよびGNASの変異が、type2はTP53, SMAD3およびKMT2Cの変異が多かった(Aoki Y et al, J Pathol. 251, 2020)。このことから、IPN-Bは2つの異なるタイプの新生物であり、Type 1は膵臓のIPN-Bのカウンターパート、Type 2は膵癌により近いタイプである可能性が示唆された。さらにIPN-Bに関して、日韓共同研究として症例を集積した。その結果、IPN=B type1は予後良好、IPN-B type2は予後不良ということが明らかになり(Kubota K et al. JHBPS, 2020)、これは先程の仮説を裏付けるものと考える。
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