研究課題
(1)DNAメチル化網羅的解析核酸抽出した胃癌、食道胃接合部癌標本について、これまで95例についてInfiniuimビーズアレイによるDNA網羅的解析を順調に終了し、また183症例についてパイロシーケンサーを用いたDNAメチル化定量解析を順調に終了した。各検体について、EBVの有無、胃粘膜の炎症・萎縮、ピロリ菌感染の有無について順調に評価している。今後癌症例を詳細に層別化し、背景・病理学的因子との相関を解明する。(2)エクソン変異の網羅的解析HaloPlexキャプチャーシーケンスにてドライバー変異125遺伝子のエクソン変異解析を順調に行っている。EBV陽性超高メチル化胃癌、MSI高メチル化胃癌、低メチル化胃癌、それぞれの各サブタイプに特徴的にみられる遺伝子変異を同定しつつある。(3)DNA異常メチル化の獲得機構の解明EBV陽性胃癌におけるゲノム広範囲の異常メチル化は、他のメチル化群のメチル化標的遺伝子を包含するが、EBVを正常胃上皮細胞にin vitro感染するモデルを用い、EBV感染が正常胃上皮にDNAメチル化を誘導する時空間的な全容を解明し報告した。また胃上皮細胞へのEBV感染により発現変化する遺伝子を網羅的に解析したところTETファミリー遺伝子の発現低下を認め、特にTET2の低下が顕著であった。ウイルス因子ではBARF0やLMP2AがヒトTET2発現を抑制する原因となり、またホスト因子ではTET2を標的とするヒトmiRNA群の発現上昇が原因となっていた。TET2によるヒドロキシメチル化標的とEBV感染が誘導する異常メチル化標的は有意にオーバーラップし、またTET2ノックダウン下にEBV感染するとより顕著なDNA異常メチル化が誘導された。TET2発現低下がEBV感染によるDNA異常メチル化の原因になっていると考えられ報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度中に胃癌および食道胃接合部癌について約162検体確保し、Infiniumおよびパイロシーケンスを用いたDNAメチル化解析やエクソン変異解析について平成29年度中に酋長する予定であったが、平成28年度の段階ですでに183例について核酸確保のみならずDNAメチル化解析まで終了している。エクソン変異解析も順調に進行しており、重要な分子異常を同定しつつある。エピゲノム異常の誘導についても、時空間的なDNAメチル化誘導の全容について順調に報告し、またヒストン修飾変化についてもすでに論文にまとめ英文校正に提出済みであり、投稿直前まで進捗している。平成28~29年度に予定していたエピゲノム異常誘導の分子機構についても、TET2発現低下の重要な役割について解明し報告した。平成29年度から行う予定であった発癌分子機構の同定実験についても開始済みであり、当初の計画以上に進展していると考えている。
臨床標本の解析について、DNAメチル化解析、エクソン変異解析を予定通り進める。胃上皮にEBV感染が誘導するエピゲノム変化について、予定していたプロモーター領域のDNAメチル化変化やヒストン修飾変化にとどまらず、エンハンサー領域を含めたゲノム全域のエピゲノム変化、クロマチン3D構造変化を含めたゲノム近接関係の変化など、より統合的な解明を目指す。またエピゲノム異常誘導機構について、平成28年度に報告したTET2のみならず他のエピゲノム修飾因子の関与についても解明を目指す。発癌分子機構の同定についてはshRNAによる網羅的ノックダウンを用いた系により、メチル化よる遺伝子サイレンシングが癌遺伝子変異による早期細胞老化を回避させることで発癌に寄与する分子機構を明らかにする。
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