研究課題
腫瘍溶解性ウイルスHF10は名古屋大学ウイルス学教室で開発されたバイオ製剤であり、本研究室で投与経路・併用療法の研究を継続的に行って来ている。HF10は腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス (HSV)であり、遺伝子変異により腫瘍のみに感染し腫瘍を破壊する。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍特異的なリンパ球の誘導など、癌ワクチン(In situ Vaccination)として転移腫瘍を含む全身療法としての効果が明らかにされた。本研究はin situ Vaccinationとして認識されてきた腫瘍溶解性ウイルスHF10がどの様な免疫学的機序で全身的な抗腫瘍作用を示すのか、また、併用療法として免疫チェックポイント阻害剤との最も効果的な組み合わせや投与方法について検討し、次世代の免疫学的抗癌剤として実臨床応用に繋げる事を目的とし、進めている。HF10のマウス扁平上皮癌細胞株SCC7に対するin vitroおよびin vivo抗腫瘍効果を検討したところ、HF10は強い抗腫瘍効果を示した。さらに、免疫チェックポイント阻害剤であるPD-L1抗体と併用し、抗腫瘍効果が増強するか検討したところ、SCC7に対してHF10とPD-L1抗体の相乗的な抗腫瘍効果を認められた。その機序を解明するために、マウスの皮下に移植したSCC7腫瘍内にHF10を投与し、腫瘍のPD-L1の発現を調べた。その結果、SCC7においてHF10によりPD-L1の発現の著しい上昇が見られた。このHF10によるPD-L1発現誘導が、併用効果の増強に関連すると考えられる。また、免疫細胞の癌細胞への浸潤が併用効果の増強に関与すると考えられるが、詳細は不明である。本研究はHF10とPD-L1抗体の相乗的な抗腫瘍効果の機序を明らかにすることを最終的な目標とする。
2: おおむね順調に進展している
HF10と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-L1抗体との併用療法をマウスに腫瘍を2個移植した両側側腹部移植モデルにて評価した結果、併用によりHF10を投与した腫瘍のみならず、非投与側の腫瘍に対しても強い抗腫瘍効果を示した。さらにHF10投与された腫瘍において細胞障害性T細胞、樹状細胞の浸潤、投与されていない腫瘍においてNK細胞、樹状細胞の浸潤が確認され、HF10投与により免疫細胞の活性化が抗腫瘍効果に大きく関与していることが明らかになった。
HF10投与により免疫細胞の活性化が抗腫瘍効果に大きく関与していることが明らかになったが、細胞障害性T細胞、NK細胞ならびに樹状細胞がどのようにして腫瘍に浸潤するか等の詳細な機序は不明である。本年度はHF10処理により誘導される癌細胞死が如何に免疫細胞を活性化させることが出来るか、in vitroならびにin vivoの系を用いて評価する予定である。また、腫瘍免疫を低下されることが知られている制御性T細胞、myeloid-derived suppressor cellsならびに腫瘍随伴マクロファージの関与も検討する。免疫細胞の癌細胞への浸潤を詳細に検討し、HF10とPD-L1抗体の相乗的な抗腫瘍効果の機序を明らかにする
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Front Oncol.
巻: 7 ページ: 149
10.3389/fonc.2017.00149
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/intlexch/cancerimmuno/www/index.html