研究課題/領域番号 |
16H05417
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大塚 隆生 九州大学, 大学病院, 准教授 (20372766)
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研究分担者 |
宮坂 義浩 九州大学, 大学病院, 助教 (40507795)
森 泰寿 九州大学, 大学病院, 助教 (50632642)
森山 大樹 九州大学, 大学病院, 助教 (70586859)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 膵癌 / IPMN / 膵管内播種 / 転移 / 再発 |
研究実績の概要 |
膵癌の代表的転移経路として血行性(肝、肺など)、リンパ行性、腹膜播種が挙げられる。一方、最近特に注目されている上皮内癌を含む早期の膵癌切除後の長期生存例のなかに、残膵に発癌する報告例が増えてきた。この残膵発癌の多くは多中心性発癌と考えられてきたが、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)由来膵癌などの一部の膵癌では膵管内播種によると思われる再発形態を取るものがある。膵癌の膵管内播種の概念はこれまで提唱されたことがなく、新たな転移・再発の機序を解明して膵癌診療に応用し、膵癌患者の予後改善を目指した研究を遂行することが本研究の目的である。 平成28年度は初回IPMN由来膵癌と異時性IPMN由来膵癌の網羅的遺伝子解析による相同性の検討を行った。同一膵内に発症し切除された初回IPMN由来膵癌と異時性IPMN由来膵癌の凍結切片およびパラフィン包埋(FFPE)切片を用い、凍結切片から抽出したRNAを用いて、約40,000の遺伝子の過剰発現と発現抑制をマイクロアレイで網羅的に解析し、初回病変と異時性病変の比較をheatmapならびにhierarchical cluster解析により可視的に行ったところ、初回病変と再発病変が高い係数で相同性を示した。さらに凍結切片からDNAを抽出し、KRAS/GNAS変異の解析も併せて行ったところ、初回病変と異時性病変の変異様式が完全に一致した。またFFPE切片でMUC1, MUC2, MUC5AC, MUC6, CDXの発現解析を、免疫染色法で行ったところ、同様に初回病変と再発病変の発現様式がほとんど一致していた。以上の結果からIPMN由来膵癌が膵管内播種による残膵再発をきたす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画どおりに初年度研究を終え、論文を作成・投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2つの課題を推進する予定である。 1.通常型膵癌異時性残膵再発例の臨床病理学的検討と分子生物学的解析 通常型膵癌の初回病変と異時性病変の背景、発生部位、病理組織像、初回切除断端の評価(など、臨床病理学的特徴を多方面から検討していく。また異時性膵癌の発生機序として、初回病変の診断の際の内視鏡的膵管造影(ERCP)/細胞診の関与について検討する。すなわちERCP中に膵頭部主膵管上皮を損傷し、そこに膵体部病変から遊離した腫瘍細胞が着床して異時性膵癌を発症するのではないかという仮説を検証する。また通常型膵癌(非浸潤癌)もマイクロアレイ法で初回病変と異時性病変の網羅的遺伝子解析を行い、同様の方法で相動性を調べ、過剰発現を認める遺伝子で代表的なもののvalidationを定量的RT-PCR法、ウエスタンブロット法で行う。また機能面から異時性病変で遊走・接着に関する遺伝子の発現上昇に着目して解析する。 2.残膵再発高危険群の同定と早期診断法開発 ERCP下に採取し凍結保存した膵液を用いて膵癌残膵再発高危険群の同定と早期診断法の開発を行う。残膵再発高危険群のマーカーとして膵液中のGNAS変異、MUC2、vimentin, fibronectinを検索する。GNAS変異とMUC2は腸型IPMN由来の粘液癌のマーカーであり、vimentin,とfibronectinはEMTのマーカーである。膵癌患者の膵液中マーカーを測定し、先の4つのいずれかのマーカー上昇群にのちの残膵再発例が含まれていれば残膵再発高危険群とみなすことができる。高危険群に対して定期的に膵液採取/細胞診を行うことで早期に膵癌を診断できることが期待でき、あるいは初回手術時に残膵再発高危険群が判明していれば、一期的に予防的膵全摘術を行うことも考慮される。
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