研究課題/領域番号 |
16H05419
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
西田 俊朗 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 病院長 (40263264)
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研究分担者 |
小幡 裕希 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 講師 (20609408)
黒川 量雄 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 専任研究員 (40333504)
眞鍋 史乃 国立研究開発法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 専任研究員 (60300901)
安永 正浩 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, ユニット長 (80450576)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 標的治療薬 / 薬剤耐性 / チロシンキナーゼ / DDS |
研究実績の概要 |
標的治療では、変異標的へのオンターゲット効果に加え、正常標的や他のキナーゼの阻害などオフターゲット作用があり、腫瘍細胞を消滅させるほど抗がん効果を発揮できず治療後も腫瘍細胞が生き残り、最終的にその中から薬剤耐性腫瘍細胞(多くの場合標的遺伝子の二次変異)を生じ、治療効果が無くなる。従って、より有効な治療を追求するなら、標的に薬剤が選択的に届き、オンターゲット効果のみを持つようなDDSを考える必要がある。 申請者はGISTで、二次耐性の現れる要因と腫瘍細胞内での変異チロシンキナーゼの活性化に伴う増殖機構を研究してきた。その過程で、①.src family活性化等特徴的な表現型を持つ細胞集団(persistent tumor cells)から耐性細胞が生じている事(Takahashi T. Genes Chromosomes Cancer)②.GISTやマスト腫瘍では、細胞膜に輸送されリガンドSCFと結合し活性化するwild type KITとは異なり、変異KITは、それぞれゴルジ或いはリソソームで活性化していることを発見した(Obata Oncogene 2017, Obata et al. Nat. Commun 2014)。 変異チロシンキナーゼが正常カウンターパートとは異なる細胞内小器官で活性化している事は他の肺がん(EGFR)等でも最近指摘されている。一方で標的治療薬(例;イマチニブ)の細胞内動態に関して詳細は全く不明である。これらの結果に基づき、本研究は以下の目的で行う。Ⅰ.細胞内の変異KITの局在化の詳細部位を同定し、ゴルジ局在・活性化の分子機構を解明する、Ⅱ.イマチニブの細胞内動態と分布を解明する、Ⅲ.変異KITの局在する細胞内オルガネラ(ゴルジ)に集積するKIT阻害剤を開発し、細胞内ドラッグデリバリー手法の基礎的開発を行うことが本研究の目的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初に変異KITのゴルジへの集積経路を明らかにした。Pitstop2とfilipinを加え細胞膜からのendocytosisを阻害してもトランスゴルジに集積していた。小胞体(ER)⇒ゴルジ輸送阻害剤であるbrefeldin Aを投与すると変異KITはERに集積し、KITは一部リン酸化するも完全リン酸化に至らず、下流のシグナル伝達系も不活性化状態であった。次に、ゴルジでのglycosylationの影響を見たがglycosylationを阻害しても、KITの活性化とゴルジ集積は変化しなかった。ゴルジ⇒細胞膜の輸送阻害剤であるmonensinの添加によるKITのゴルジ集積とそこでのKIT活性化に変化を認めなかった。また、幾つかの下流のシグナル伝達系の阻害剤を投与したが(ATK-mTOR、STAT5、MEK-Erk阻害剤)、何れの薬剤もKITの集積部位を変化させることは無かった。また、変異KITの活性化をイマチニブで阻害するとwild type KITと同様にゴルジに留まらず細胞膜に移動した。以上より、GISTでは変異KITはトランスゴルジに集積し増殖・生存シグナルを出している。このトランスゴルジへのKITの集積にはKIT自体の自己リン酸化が必要であることが示された。 次に、GIST細胞に変異EGFRをtransfectionするとendosomeに分布し、EGFR肺癌に変異KIT をtransfectionするとゴルジ体に集積し活性化した。ゴルジ体で留まる場合は、チロシンキナーゼが完全活性化し下流のシグナル伝達系が働いており、ゴルジ体を超えてendosomeに分布する場合は、キナーゼのリン酸化は起こっても完全活性化には至らず、下流のシグナル伝達系全てが活性化しているわけではないことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
イマチニブの細胞内動態の直接測定に関しては、イマチニブ自体が持つ吸収と蛍光を用いSCLIMでの直接測定を試みたが、感度以下で測定できなかった。一方、アルケン或いはアルキン結合イマチニブとBODIPYとの細胞内結合によるTurn-on システムは稼働することが確認され、SCLIMで測定できることが明らかになった。蛍光ラベルしたイマチニブの測定と並行して、SCLIMを用い細胞内動態を測定する。同時にSCLIMで、イマチニブが細胞内に取り込まれたのちの、細胞内動態とそれに関与するタンパク等を明らかにする。また、細胞内イマチニブ測定に関しては阪大との共同研究で二光子法を用いて、イマチニブを直接測定できないか検討を開始する。 PDXモデルを用いたイマチニブの腫瘍組織並びに正常組織への分布解析に関しては、cell lineをPDXモデルマウスに植えつけ、質量顕微鏡にてイマチニブとその代謝物を測定する。 活性化した変異KITのゴルジ局在のメカニズムに関しては、ゴルジでKITとインターラクションするタンパク質を免疫沈降し、変異KIT活性化状態、変異KIT非活性化状態、wild type KIT等様々な条件下でKITとゴルジで結合するタンパク質を抽出し、プロテオーム解析にかける。プロテオーム解析は医薬基盤研で行い、この中からリン酸化KITにのみ結合するキャリアータンパク質の抽出を試みる。タンパクの候補が明らかになれば、Knockdownや阻害剤等を用いて、KIT局在への関与を明らかにし、タンパク質の機能解析とSCLIMで局在解析を行う。
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