研究課題/領域番号 |
16H05420
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
吉村 清 国立研究開発法人国立がん研究センター, 中央病院, 医長 (30346564)
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研究分担者 |
玉田 耕治 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00615841)
倉増 敦朗 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (90302091)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞免疫療法 / 腫瘍免疫療法 |
研究実績の概要 |
平成28年度には最も重要な項目の一つであるCAR-T療法の開発において、適切な標的抗原の決定を行うために、特に有力な候補である分子Xに関して実際に妥当性、安全性の評価が重要と考え、この膜蛋白分子であるXに関して各種がんや正常組織での発現確認を行った。つまりCAR-T細胞免疫療法の開発は現在血液系腫瘍で盛んに行われている。これに対して固形がんに対してはその開発の大半が中国で行われているものの、多くは第一相試験で終了するなど早いフェーズで終了している。これには幾つかの理由が考えられるが、重篤な副作用が多発したことが理由となっているケースがある。この原因の一つとして考えられるのが、CAR-T療法は標的としている膜蛋白分子ががんに強く発現している必要があるが、その一方で、この標的分子が正常組織に弱いながらも発現していることが多々あり、従来の免疫療法に比べて治療効果が強い分、より厳密に検索する必要があると考えられる。このため固形がんに対するCAR-Tを中心としたT細胞免疫療法の標的分子の候補が決定的に少ないことに関して、今年度の本研究開発では非常に有力な標的(分子X)がTissue microarrayなどの検証から、適切な標的であることが確認できた。これを標的とした細胞免疫療法の開発を開始できた。これを実際に既存のポリクローナル抗体による標的Xに対するCAR-T療法の抗腫瘍効果の実証実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
分子Xは細胞表面に発現し、RT-PCRでのスクリーニングでは大腸がん及び肺腺がん組織に発現しているが、大腸正常組織・肺組織のmRNAの発現は認められなかった。この分子を複数の胃がん細胞株あるいは腹膜播種細胞株での発現を検索するといずれのがん細胞でも発現しているが特に腹膜播種での発現が顕著であることが判明した。細胞免疫療法の標的として用いた時に実際に機能するか、またどの程度抗腫瘍効果を発揮するかを検証するため、既存の分子Xに対するポリクローナル抗体をFITCラベル化にCAR-T細胞を作製し、分子Xを発現する腫瘍株で確認を行った。まず胃がん腹膜播種の細胞株60-As6に分子Xが発現していることを確認し、この細胞を標的としたCrリリースアッセイを行った。これは4時間で殺細胞効果を見るもので、短時間の活性化したT細胞の抗腫瘍効果を見るアッセイである。実際には腫瘍と活性化したT細胞が接触後に、腫瘍の免疫逃避機構が働くため、短時間でのアッセイの結果が実際の抗腫瘍効果と相違が出る場合があるため、より現実的なタイムスケジュールを考慮し約4日間の腫瘍とT細胞の共培養による細胞傷害活性の計測をxCELLigenceを用いて行った。この結果、長時間のアッセイでも非常に高く安定した抗腫瘍効果を発揮することがわかった。これは予備実験として行ったEGFRを標的とした同様のCAR-Tに比べても圧倒的な抗腫瘍効果で有り、改めて標的毎に抗腫瘍効果は違うため良い標的が良い治療に繋がることを示した。またこの効果は免疫シナプスと言われる免疫細胞-腫瘍細胞の接触を通じて行われる。そこで腫瘍細胞株に色素発現ベクターを組み込み、CAR-T側も同様に色素を発現させ経時的に観測した。これによるとCAR-Tは凝集し腫瘍と接着した後により大きな凝集したCAR-Tに時には受け渡しをしながら殺細胞効果を発揮していることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
同定したCAR-T標的抗原である分子Xのオリジナルなモノクローナル抗体作製を開始した。リコンビナント蛋白を作製し、動物免疫により抗体作製を開始した。この抗体が作製できれば早急にこの抗体による各種がんや正常組織での発現確認を確認する準備を行う。さらに遺伝子配列決定を行う。
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