研究課題/領域番号 |
16H05433
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
光冨 徹哉 近畿大学, 医学部, 教授 (70209807)
|
研究分担者 |
西尾 和人 近畿大学, 医学部, 教授 (10208134)
冨田 秀太 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10372111)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 肺癌 / 分子標的治療 / MET遺伝子 / チロシンキナーゼ阻害剤 / エクソン14スキッピング |
研究実績の概要 |
われわれは肺癌の新規治療標的として2009年からMET遺伝子のエクソン14欠失変異に注目し、肺癌手術検体の解析でこの変異が肺腺癌の3.3%にあることを見出した。2016年には初めて、METエクソン14欠失変異を有する肺癌に対してクリゾチニブのPhase I試験の結果が報告された。しかし、奏効率は40%程度と従来のドライバー遺伝子変異を有する肺癌に対するチロシンキナーゼ阻害剤の成績(60%程度)と比べて低く、またMET阻害剤奏効例においても耐性を獲得することが報告された(Drilon et al, ASCO 2016) MET遺伝子変異肺癌に対する分子標的治療の確立、その耐性機序の解明と克服が課題となる。しかし感受性試験、耐性機序の解明に適したMET変異を有する肺癌細胞株が存在しないため、METエクソン14欠失変異のみに依存して生存・増殖を示すBa/F3細胞の作成をレトロウイルスベクターを用いて行った。これを用いてタイプ別にMETチロシンキナーゼ阻害剤に対する薬剤感受性を評価した。 1) MET エクソン14 欠失変異Ba/F3細胞に対する各METチロシンキナーゼのIC50は以下のようであった。 タイプ Ia Crizotinib(41.4nM); タイプ Ib Capmatinib(3.0nM), Savolitinib(23.5nM), Tepotinib(41.7nM), AMG337(2.1nM); タイプ Ⅱ Cabozantinib(0.7nM), Merestinib(1.3nM), Glesatinib(6.7nM); タイプ Ⅲ Tivantinib(489.0nM) 臨床試験などの結果で公表されているヒトにおける薬物血中濃度を考慮すると、Capmatinib、AMG337、Cabozantinibが有望であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MET Exon14の欠失変異に加えて、頻度は少ないが報告例のあるMET Exon14領域の点突然変異(Y1003F, D1010Y)を有するレトロウイルスを作成した。これらをIL3に依存して生存増殖を示すマウスproB細胞株であるBa/F3細胞に導入すると、IL3がなくとも自律的に増殖を示すことが全てで確認できた。従って、これらの遺伝子変異がドライバー癌遺伝子であることが強く示唆される。 樹立した細胞を用いてMETチロシンキナーゼ阻害剤をタイプ別に9種類投与し、細胞生存率が50%になる薬剤濃度(IC50)を3種類の細胞について、それぞれ算出し、Capmatinib、AMG337、Cabozantinibなどが特に有望であることを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
EGFR肺癌の耐性機序に関する研究で培った手法を応用し、今回樹立した細胞を用いてMET チロシンキナーゼに対する耐性機序の解明、その克服を目指す。 MET Exon14の欠失変異を有するBa/F3細胞に対して、点突然変異を高率に誘発するENU(N-ethyl-N-nitorosourea)暴露後にMETチロシンキナーゼ阻害剤を投与することで薬剤の結合部位に変異を起こし、耐性を獲得した細胞を人為的に作成することで耐性メカニズムを解析する。同手法を用いてタイプI METチロシンキナーゼ阻害剤であるCrizotinib, Capmatinibを投与して耐性クローンを作成したところ、Solvent front部位、ATP結合部位のG1163R、Y1230C/S/Hの既報の耐性変異を現在確認できている。これらの耐性変異を有する細胞に対して、他の薬剤使用による克服の可能性を探索していく。またTypeⅡの薬剤を使用した際の耐性メカニズムは未知であり、現在他の癌腫で既に承認されているCabozantinibを投与して耐性クローンを作成し、耐性機序の解明、それらの克服方法についても検討していく予定である。
|