研究課題
スーパーエンハンサーは最近提唱された概念で、発生や分化に関わる鍵となる遺伝子転写を長い非エキソンレベルで制御する転写因子群である。これまでの基盤研究で、神経膠腫750例を次世代シークエンスすることで、WHO grade II/IIIからgrade IVに至る過程で起こるゲノム異常を詳細に同定した(Suzuki, Natsume et al. Nature Genetics, 2015)。このビッグデータをどのように臨床に役立てるか、また、いかに脳腫瘍の発生や進展機序に深く踏み込み、治療に結びつけるかが今後の重要課題である。我々の基盤研究から時間的/空間的にクロマチン構造を調節する遺伝子が有意に変異し機能不全を来していることが示唆された。脳腫瘍が悪性化する遺伝子改変マウスモデルとヒト脳腫瘍検体を対象に、クロマチン免疫沈降シークエンス, RNAシークエンス, 全ゲノムシークエンスを行い、悪性脳腫瘍形成に関わるスーパーエンハンサー異常と遺伝子発現異常を解明することが目的である。その後、腫瘍形成過程における新規ゲノム異常の解析を行い、個体レベルでの腫瘍形成に対する影響の評価をし、標的となる分子に対する創薬につなげる。具体的には、今年度は、in vitro研究にて各種遺伝子操作によるスーパーエンハンサー異常の解析、腫瘍形成過程におけるRNA異常の変化の解析、腫瘍形成過程における全ゲノム異常の変化の解析を行った。まずは、細胞株を使って、手技の正確さを確認するために、すでに報告のあるデータの追試を行った。その結果、再現性のある結果が得られ、手技が問題ないことが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
本課題では時間的空間的に脳腫瘍が悪性化する遺伝子改変マウスモデルとヒト脳腫瘍検体を用いて、脳腫瘍の発生と悪性化に強く寄与するスーパーエンハンサーの異常を同定し、ゲノム異常とクロマチン構造異常のクロストークの解明とその標的への創薬開発をすることを目的とする。その中で、今年度はヒト脳腫瘍細胞株を用いてスーパーエンハンサーの異常を同定を行った。また、ヒト脳腫瘍検体の解析の準備も行っている。
ヒト悪性脳腫瘍検体との比較個体レベルとヒト悪性脳腫瘍検体での評価および治療標的として候補となるゲノム、エピゲノム異常を見いだす計画である。そのため、ヒト悪性脳腫瘍の発現解析を行い、MADMマウスの腫瘍細胞における発現異常が同様にみられるか解析する。次にヒト悪性脳腫瘍から脳腫瘍幹細胞を樹立し、再発腫瘍症例からも同様に樹立していく。樹立した脳腫瘍幹細胞のゲノム異常、エピゲノム異常についてこれまで同様に解析していく。MADMマウスにEZH2のコンディショナルノックアウトマウスを交配させることでトリプルノックアウトマウスを作製する。EZH2単独ノックアウトマウスから神経幹細胞やアストロサイトを分離培養し、EZH2のノックアウトが脳組織の分化においてどのように影響を及ぼすか、また個体レベルの発達にてどのように影響するか評価する。MADMマウスを用いてEZH2の阻害剤の腫瘍抑制効果を評価する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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