本年度に実施した研究成果については下記の通りである。 ①神経堤細胞研究:昨年に引き続き、(A)誘導過程の分子作用機序の解明を目的とした網羅的遺伝子発現解析と、(B) 化合物ライブラリースクリーニングによる維持培養法の開発を行った。(A)では誘導過程の各段階の遺伝子発現をRNAseqにより詳細に調べたところ、維持培養中にSOX10遺伝子が減少することが確認された。しかし本来の目的である誘導過程で重要な役割を担っているシグナル分子の同定を試みたが、解析からは候補分子は得られなかった。また昨年に引き続き行った(B)の化合物スクリーニングでも、維持培養可能な培地条件は同定されなかった。しかし、別研究経費で培養皿表面の気質の固さを調整した際にSOX10遺伝子の減少が一部抑制されるという予備的データを得たため、継続して研究を行う予定である。 ②神経細胞研究:同定済みの培養条件で継代培養した細胞に、神経への分化能が保持されていることを確認した。現在の培養条件で維持された細胞は神経幹細胞であることが確認された。 ③中胚葉細胞研究:昨年に引き続き (B) 化合物ライブラリースクリーニングによる維持培養法の開発を行ったが、維持培養可能な培地条件を見出だすことはできなかった。中胚葉誘導について海外査読付き論文雑誌に論文として発表した。 ④間葉系幹細胞研究:神経堤細胞由来間葉系幹細胞と成体由来間葉系幹細胞の遺伝子発現比較を行った。神経堤細胞由来間葉系幹細胞のみで発現している特徴的な遺伝子を幾つか同定することに成功した。現在、それらの遺伝子が神経堤細胞由来間葉系幹細胞の特徴を決定しているのかどうか、機能的に検証中である。
|