中枢神経系は再性能に乏しく、一度損傷を受けると修復も再生もなされないと考えられて来たが、実際の臨床では不全麻痺の脊髄損傷であればかなりの運動機能回復が認められる。しかし、この機能回復メカニズムはほとんど明らかになっていない。本研究に於いては、マウス不全麻痺せき損モデルに於いて機能回復が認められる時期に脊髄に発現している全遺伝子の網羅的な解析を行い、自己修復メカニズムに関わる因子の同定を試みた。その結果、転写因子であるIRF8(Interferon Regulatory Factor8)が運動機能回復時期に顕著に発現していることを見出し、さらにこのIRF8欠損マウスに於いては損傷後の組織修復並びに運動機能回復が著しく阻害されていることが明らかとなった。このマウスに於いては、浸潤したマクロファージの収束化が欠落しており、さらに反応性アストロサイトの移動能にも影響を与えていることが明らかとなった。浸潤マクロファージの移動は補体C5aへの走化性がメインであることを確認し、さらにIRF8下流のメカニズムについてはプリン受容体の関与が必須であることを確認した。また、IRF8のリガンドであるインターフェロンγとLPSの投与により、早期からIRF8を活性化可能であり、結果として移動能の促進が早期からの損傷修復機構の発動につながり、有意に良好な運動機能の回復が得られた。これらの知見は中枢神経外傷にとって新たな治療コンセプトを提唱し、新規治療法開発へ繋がるものと期待された。尚、本成果はScience Advancesへ掲載された。
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