研究課題
思春期特発性側弯症(以下、AIS)は思春期の女児の約2%の頻度で発症する疾患である。われわれはAIS患者約2000例に対して、ゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法を用いた遺伝子解析により、すでに発症に関与する疾患感受性遺伝子を3個(Takahashi et al. Nature Genet 2011; Kou et al. Nature Genet 2013; Ogura et al. Am J Hum Genet 2015)、進行に関与する遺伝子を1個(Miyake et al. PLoS One 2013)、それぞれ同定して報告した。本年度われわれは、サンプル数を約5000例まで拡大し、層別化解析を行うことにより、AISの進行・重症化に関与するMIR4300HG遺伝子を新たに同定した(Hum Mol Genet. 2107)。また、われわれの研究グループ(日本)とアメリカ合衆国、中国、香港、スウェーデンとの国際協力体制を整え、各国のAISに対するGWASの解析データを統合し、メタ解析を行うことで、新たに複数の側弯症発症に関与する複数のlocusを同定した (論文投稿中)。また同国際メタ解析により、先の研究で同定されたGPR126, BNC2, SOX9がそれぞれ、全世界的に再現されるAISのより強い疾患感受性遺伝子であることを同定した (Sci Rep. 2018, Sci Rep. 2018, 論文投稿中)。現在、日本人AISの検体数は6000例を超えており、追加で3500例に対してGWASを行っている。これは全世界的にAISの遺伝子研究において最大の検体数であり、今後これらのゲノムデータを活用し、AISの疾患感受性遺伝子を同定していく予定である。また、AISの発症と環境因子の解析もサブグループ解析を行っており、側弯のリスクファクターについて検討を続けている。
2: おおむね順調に進展している
先に行ったAIS GWASの約2000例のデータに関しては、AIS患者に対するGWASデータの層別化解析を中心に行っている。AISは比較的均一な表現型を有する集団ではあるが、進行や重症化のパターン、カーブタイプ(胸椎/腰椎/ダブルカーブなど)、併存症(心疾患、胸郭変形など)の有無など、症例によって様々な表現型のバリエーションが存在する。層別化解析はそういったパラメータを持った症例を抽出し、再度ゲノムワイドに相関解析を行うことで、それらのパラメータのgenetic backgroundを明らかにすることができる。現に、進行/重症化に関する層別化解析では、AISの進行に関与する新たな遺伝子を発見した(Hum Mol Genet. 2107)。カーブタイプの層別化解析では、胸椎カーブのみの症例と腰椎カーブのみの症例では、明らかにSNPの傾向が異なっており、さらに解析を進めているところである。また、現在AISは約6000例の検体を取得済みである。現在追加のGWASを3500例に対して行っており、そのゲノムデータの整理を行っている。ゲノムデータの整理が終了した時点で、先に行った2000例のGWASデータと統合し、約5500例のGWASデータに対してメタ解析を行う予定である。またそれらのデータを上記サブグループ解析に用いることで、進行/重症化、カーブタイプ、併存症などに特異的なAIS疾患感受性遺伝子の同定を試みる。AISの環境因子に関しては現在、さらに詳細に解析を行っている。最終的には同定されたAISの疾患感受性遺伝子および、環境因子を用いて疾患発症の予測モデルを構築し、残りの検体を用いでValidation studyを行い、臨床に応用することを目指している。
AISに関しては、約5500例のGWASデータを用いて、進行/重症化、カーブタイプ、装具治療の成績などのパラメータを用いて層別化解析を行っていく。層別化解析で検出された有望な候補SNPに対しては、アメリカ合衆国、中国、香港、スウェーデンのGWASデータを用いて再現性を確認する。さらに同定されたLocusに関してSNPのタイピング結果またはHapMapデータベースより連鎖不平衡(LD)の程度を推定、疾患に関連するゲノム領域を特定する。特定したゲノム領域近傍に存在する疾患感受性候補遺伝子に対して、多様な遺伝子発現データベースを用いて疾患の発症に関わる可能性のある疾患感受性候補遺伝子を同定する。さらに、病変組織におけるこれらの疾患感受性候補遺伝子の発現解析を行い、側弯との関連性を証明する。また、家族性のAISや、併存症を有している症例、側弯の重症度が高い(Cobb角が重症)症例などに関して、全エクソン解析(Whole exome sequensing: WES)を行い、患者間で共通した遺伝子変異を同定することも検討している。よりmonogenicの要素が強いAIS症例に関してはWESは有効な方法の一つであると考えられる。また、先に述べたように側弯症の二次検診を受診した中学生に対するライフスタイル、社会因子、環境因子の大規模調査により、複数のAIS発症のリスクファクターを同定した。これらの情報と、GWASによるSNP情報を組み合わせることにより、それらの遺伝的背景を明らかにすることが可能になると考えられる。
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