研究課題
前年度までの研究により、急性肺傷害では自発呼吸の温存により状況によっては肺傷害をさらに悪化させることを解明した。その際の人工呼吸様式として従圧式換気を選択すると経肺圧が制御できないため肺傷害の進展が進むことを前年度解明したが、本年度は実際の人工呼吸において重要なPEEPの影響を検討することとした。動物肺傷害モデルを作成し低PEEPと高PEEPの2群に分けた。経肺圧は食道内圧による平均圧と胸腔内に圧プローブを埋め込むことで局所経肺圧を計測した。肺内の炎症はPETと組織学的検索により行った。その結果、低PEEP群では自発呼吸の影響で肺下部の局所経肺圧が増大し局所肺過膨張が発生した。そのため肺下部に強い炎症を認めた。高PEEP群では虚脱肺の減少と自発呼吸による局所経肺圧の低下が起こった。結果として高PEEPにより肺内の炎症は大きく低下した。結論としてPEEPにより自発呼吸による傷害肺への悪影響を抑止できること、経肺圧の計測を通じて肺傷害抑止に必要なPEEPを決定できる可能性があることが判明した。本課題の最終目的として、重症呼吸不全に対する最適換気法の評価に腎機能を加えることがある。最初の計画では画像による評価を検討する予定であったが、技術的問題があるため、平行して別のアプローチを行っている。急性肺傷害を含む重症病態では腎髄質血流の減少により低酸素から組織壊死を起こすのが急性腎傷害のメカニズムと言われている。膀胱内の尿中酸素分圧が腎髄質酸素分圧を反映することが分かっているため、腎髄質血流を画像で検討する代わりに膀胱内尿中酸素分圧により評価を行う方法を動物モデルで検討中である。
3: やや遅れている
急性肺傷害に対する最適換気法の検討は計画通り進んでいるが、腎血流計測法の開発が遅れているため最終段階としての両者を合わせた研究が開始できていない。膀胱内尿中酸素分圧計測法の開発が終了次第、開始する予定である。
最初の計画では急性肺傷害に対する最適換気法を腎機能を含めて検討し、大規模臨床試験につなげることを計画しており、最適換気法に関しては必要とされる結果を得ることができている。しかし研究の過程で自発呼吸努力を制御することの重要性を強く認識することができた。本年度の結果に見られるようなPEEPによる肺傷害抑止を認めたが、実際の急性肺傷害患者ではPEEPが無効な場合がある。そこでPEEP以外に、アルカリ化剤を用いて呼吸中枢の活動を直接抑制するなどのアプローチも検討し始めている。これらの結果を踏まえて、肺傷害動物モデルで腎機能を含めた最適人工呼吸管理法を検討していく方針である。
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American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
巻: 197 ページ: in press
10.1164