研究課題/領域番号 |
16H05461
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀典 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30221328)
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研究分担者 |
齋藤 文仁 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20360175)
坂本 篤裕 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30196084)
坂井 敦 日本医科大学, 医学部, 講師 (30386156)
丸山 基世 日本医科大学, 医学部, 助教 (60709757)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 一次感覚神経 / 長鎖ノンコーディングRNA / Neat1 / 神経障害性疼痛 / 脊髄神経結紮 / 後根神経節 / ヒトiPS細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、難治化する神経障害性疼痛の中で最も頻度の高い一次感覚神経(末梢神経)障害に焦点をあて、疼痛の発症・維持機能のみでなく、再生・機能回復を制御する機構も併せて解明することによって、神経障害性疼痛の発症機構の解明と根治治療薬の開発基盤形成を目的としている。新規なアプローチとして、細胞内に大量に存在するものの、生物種差が大きく、生理的機能が未解明である長鎖ノンコーディングRNA (lncRNA)をモデル動物とヒト細胞を駆使することにより解析することとした。げっ歯類神経障害モデルの一次感覚神経におけるlncRNAの神経障害性疼痛および機能再生に対する分子機構の解明に関しては網羅的スクリーングの結果、既知および未知のlncRNAを複数同定し、解析を進めている。 その1つとして今年度はNeat1の神経障害性疼痛における役割を解析した。RNAシーケンスにより後根神経節においてNeat1が豊富に発現し、神経障害性疼痛モデルラットにおいて発現上昇することが明らかとなった。In situ hybridization法により、Neat1は一次感覚神経の主に核内に存在した。一次感覚神経にウイルスベクターを用いてNeat1に対するshort hairpin RNAを遺伝子導入しNeat1の発現を抑制すると神経障害性疼痛が緩和された。疼痛緩和とともに神経傷害に伴う遺伝子発現変化の多くが抑制され、パスウェイ解析によりこれらの遺伝子群には免疫細胞機能や神経疾患に関わるものが多く含まれていることが明らかになった。さらにNeat1が結合するタンパク質分子を同定し、本分子が疼痛に関わる分子機構について検討を行っている。 ヒトにおける神経障害性疼痛に関わるlncRNA解析に向けて、ヒトiPS細胞から一次感覚神経細胞へ分化させる実験系の確立を検討し、ほぼ実験条件を設定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の計画は、一次感覚神経におけるlncRNAの神経障害性疼痛および機能再生に対する分子機構の解明に向けて、げっ歯類の神経障害性疼痛モデルにおいて発現変化するlncRNAのスクリーニングと同定、および疼痛発症・維持、機能再生に対するlncRNAの関与の検討を進めることであった。今年度は、昨年スクリーニングで見出したlncRNAの中でNeat1について、神経障害性疼痛時の経時的発現変化、ウイルスベクターを用いた発現抑制による疼痛行動変化、細胞内で結合するタンパク質分子などが明らかとなり、疼痛発症維持に関わるlncRNAの分子機能解析が進展した。併せて、iPS細胞を利用したヒトにおける神経障害性疼痛に関わるlncRNA解析に向けて、ヒトiPS細胞から一次感覚神経細胞へ分化させる実験系が確立した。以上の成果から、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)神経障害性疼痛時に後根神経節で発現変化する新規lncRNAの機能解析 Neat1の他に、神経傷害により持続的に発現変化する新規lncRNAの病態生理学的意義を疼痛の発症・維持機能のみでなく、再生・機能回復に関してまで検討していく。lncRNAの発現抑制あるいは発現誘導によって神経障害からの回復機転がどのように改善されるかについて、培養細胞から個体行動レベルで検討する。Neat1と同様にバイオインフォマティクスを活用して新規lncRNAが結合するRNA分子の推測を行い、実験的に検証する。また、RNAプルダウン法と質量分析を組み合わせることにより新規lncRNAに結合するタンパク質分子を網羅的に探索する。これらの結合分子の機能から推測される細胞内の役割をパスウェイ解析により検討する予定である。 2)ヒトにおける神経障害性疼痛に関わるlncRNA解析を行うために、iPS細胞から分化誘導した一次感覚神経細胞において、ウイルスベクターを用いた遺伝子発現操作により、新規lncRNAの機能解析を行う。分化させた一次感覚神経細胞を用いて、神経障害に相当する処置により発現変化するヒト特異的なlncRNAの機能を解析する。また、遺伝性の神経障害性疼痛患者由来iPS細胞を一次感覚神経細胞に分化させ、lncRNAの関与を検討する。これらの解析を通して、種差が大きいlncRNAに関して、ヒトにおける機能を確立する。
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