わが国において子宮体癌の患者数は最近20年で約6倍と著明に増加しており新たな治療の開発が強く待たれている。我々は細胞周期調節因子の観点から子宮体癌の増殖機序の解析を行った結果、サイクリンA2の発現が独立した予後不良因子であること、さらにサイクリンA2はAkt経路の活性化を通してシスプラチンに対する耐性の獲得に関与していることを明らかにした。この結果からサイクリンA2が治療標的として好適であると考え、サイクリンA2の発現を抑制する薬剤の開発を試みた。 サイクリンA2 プロモーターを有するルシフェラーゼアッセイを樹立し、1万種の低分子化合物ライブラリーに対してスクリーニングを施行したところ、サイクリンA2発現抑制活性を有する分子量約300の化合物Xを新たに同定した。この化合物Xは体癌、卵巣癌、乳癌などの細胞などに対し、1x10-7Mの濃度で最大94%のサイクリンA2転写抑制と93%の細胞増殖抑制効果を示した。さらにこの化合物Xを子宮体癌細胞の皮下異種移植腫瘍をもつヌードマウスに皮下投与したところ、腫瘍増殖を有意に抑制し、化合物Xが体癌に対する有望なリード化合物であることが判明した。化合物Xの物性改善のために、構造を改変した新規化合物X1を新たに合成したところ、化合物Xと比較して可溶性が改善し、体癌細胞に対する増殖抑制能は約10倍向上した。次いでヌードマウス皮下の体癌細胞異種移植腫瘍に化合物X1を局注したところ、約1週間で腫瘍は消失した。また化合物X1は腹腔内投与によって各種の体癌細胞の増殖を抑制したが、この効果は細胞株によってはシスプラチンより高かった。これらの結果は化合物X1が全く新規の体癌の治療薬としての極めて高い可能性を示すものである。現在化合物X1の更なる効果の評価と機序の解明、およびその臨床応用を検討している。
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