研究課題/領域番号 |
16H05472
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉川 史隆 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (40224985)
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研究分担者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (00345886)
鈴木 史朗 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (20612758)
中面 哲也 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (30343354)
柴田 清住 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90335026)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 婦人科がん / 腫瘍免疫 / 腫瘍浸潤リンパ球 |
研究実績の概要 |
婦人科がんにおける個別化腫瘍免疫療法の開発を目指し、患者由来腫瘍のin vivoモデル(Patient-derived xenograft: PDXモデル)の構築と腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocytes: TIL)の基礎的検討を並行して行っている。 当該年度においては、1)婦人科がん患者の腫瘍からTILを分離・培養する技術の確立、および2)免疫不全マウスを用いた患者オリジナルのがん細胞株樹立(PDXモデル)を中心に研究をすすめた。 TIL培養に関しては、TIL culture mediumに高濃度IL-2を添加し培養するが、添加するIL-2濃度を3000IU/mlを基本とし患者・組織型ごとのTIL増殖程度に合わせて適宜増減して培養した。0.6-3.8x100万個と培養後に回収・保存できた細胞数には幅があるもののすでに婦人科がん検体から13例のTIL培養ができている。そのうちの数例に関して、TILのフェノタイプ(CD8, CD4など)や表面マーカー(CD107aなど)の解析をフローサイトメトリー(FACS)にて行った。 PDXモデルに関しては、2mm大ほどに細かく切断した腫瘍細胞塊や腹水由来細胞を用いて、超免疫不全マウス(NSGマウス)の皮下・腎被膜下への移植もしくは腹腔内に注射し腫瘍細胞の生着・増殖の確認を行った。婦人科がん14例(卵巣がん12例、子宮体がん1例、卵巣がん+子宮体がん1例)についてPDXモデルの作製を試み、うち6例で初代腫瘍生着に成功している。継代後の腫瘍増殖が確認できた症例はまだ6例中4例の状況であるが、初代腫瘍と比べて継代後は腫瘍形成に要する期間が短縮される傾向がみられた。そのうちの複数例において、病理組織学的に移植元のがん組織の形態が継代後も維持されていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TIL培養に関しては、初期段階で添加するサイトカイン濃度等の培養条件の検討にやや時間を要した。患者・組織型ごとのTIL増殖程度にバラつきがあるため、細胞保存の時期に関しても培養開始後2-3週の幅で検討を行った。培養後のTILについては、フェノタイプ(CD8・CD4等)だけでなく、表面マーカーの解析を追加して行うこととしたが、TIL培養症例数に対してFACSでの解析がやや滞っており遅れている。手術検体が比較的多く得られる症例に関しては現在はex vivoでも同様の解析をFACSを用いて行うこととしている。 PDXモデルに関しては、NSGマウスへの移植後初代腫瘍の生着が確認できるまでに40-60日程度を要している。初代腫瘍と比べて2代目以降の継代後腫瘍形成に要する期間は短縮される傾向ではあるものの、in vivo継代が安定して可能である株化に成功したかどうかの判断にはさらに数か月の時間を要する状況である。 得られたTILが腫瘍縮小効果を示すことができるかどうかを検証するうえでは、TILも細胞株も同一の患者由来である症例での検討がHLA不適合の問題がなく望ましい。この点について、同一患者由来のTIL・細胞株セットが十分にそろっておらずやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、婦人科がんにおける個別化腫瘍免疫療法の開発を目指したPDXモデルの構築とTILの基礎的検討を並行して行うこととする。TILのFACSによるフェノタイプ解析については、同一症例からPDXモデルも樹立できている症例から優先的に行う。樹立した患者由来がん細胞株を用いたTILの抗腫瘍効果検証実験を今後行っていく。in vitro実験では、樹立したがん細胞株をターゲット細胞として用いて、エフェクター細胞であるTILを同時に培養し、細胞傷害活性やIFN-γ‐ELISA法・ELISPOT法でその抗腫瘍効果を測定する。さらにin vivo実験として、樹立したがん細胞株を用いた免疫不全マウスの皮下注モデルから優先的に行う。皮下腫瘍モデルでは約5mm 程度の腫瘍サイズまで発育させた後に、同患者のTILを静脈内に移植し、腫瘍サイズを測定し治療効果を判定する。同様に腹腔内播種モデルでは、腹水貯留が肉眼的に確認できる時期・体重を目安に、TILを静脈内ないし経腹的に移植し、腫瘍サイズおよび腹水量を測定し治療効果を判定する。 上記検討結果をふまえて、がん細胞が提示しているペプチド候補の探索へと研究をすすめる予定である。がん切除検体から、がん組織の一部と非がん組織の一部の次世代シーケンサー(NGS)での解析により、がん部と非がん部のゲノムシーケンスの差引により、患者ごとのがん特異的体細胞遺伝子変異を同定する。さらにPDX由来の腫瘍細胞についてもNGSを使用したゲノム解析を行い、婦人科がんに特異的に認められる遺伝子変異を解析する。同定した遺伝子変異によって、アミノ酸配列が変わると予想される部位を中心に候補ペプチドをデザインする。遺伝子変異に由来するペプチドの同定が困難な場合は、がん細胞固有の自己抗原由来のペプチドの同定についても探索する予定である。
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