研究課題
卵巣癌におけるゲノム多様性の評価方法として、腫瘍組織におけるクローン性に着目し、クローン数の解析を行うことから着手した。倫理委員会の承認を得た上で、過去に採取した卵巣癌検体24例のパラフィン包埋切片よりDNAを抽出し、全ゲノム領域におけるSNPbased arrayを行った。また、癌と関連する主要な50遺伝子変異解析を次世代シークエンサーを用いて行った。これらのデータを専用ソフトにより全ゲノム領域のコピー数異常を網羅的に解析するとともに、専用プログラムによりクローン数解析を行った。結果として、がん遺伝子の変異を有する卵巣癌ではクローン数が少なく、がん遺伝子の変異を持たない卵巣癌ではクローン数が多いことが示唆された。すなわち、がん遺伝子などのドライバー変異を持たない腫瘍クローンはパッセンジャー変異が多く、腫瘍の体細胞遺伝子変異が多い可能性が見いだされた。海外の報告で、抗PD-1抗体の効果はその腫瘍における遺伝子変異の数が多い程効果があるとされ、免疫療法におけるバイオマーカーとして注目されている。今回の結果は、クローン数が多い腫瘍はパッセンジャー変異が多く、すなわち腫瘍の体細胞遺伝子変異が多く免疫療法が奏功する可能性があることを示唆するものであった。また、卵巣癌における標準的な化学療法であるパクリタキセル・カルボプラチン療法の奏功に関して、マイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルを用いたバイオマーカー探索を試み、スコア化することで効果を予測することが可能であることが示唆された。抗PD-1抗体ニボルマブの効果予測バイオマーカーとして、遺伝子シグネチャーが感受性、耐性を予測することを示した。これらの結果を組み合わせることで、ゲノムバイオマーカーによる卵巣癌の個別化治療が可能となると推察された。
2: おおむね順調に進展している
実臨床に応用できる臨床材料を用いた腫瘍ゲノム解析方法を確立し、さらに腫瘍ゲノムと免疫原性のあるバイオマーカーを同定することであり、現在再発卵巣癌に対するNivolmab(抗PD-1抗体)治療の複数の感受性・耐性予測バイオマーカーを同定している。
①実臨床応用にむけての階層的遺伝子変異解析パイプラインの整備。卵巣癌の遺伝子変異には遺伝子変異、コピー数変異、融合遺伝子変異や量的な変異など複数の階層の変異パターンが存在する。臨床応用をめざして、複数の階層の変異を統合して解釈可能な形に持ち込むことが必要である。また算出したゲノム多様性の評価スコアにはその臨床的意義と再現性・信頼性の評価が重要となる。実臨床で変異情報が薬剤選択の基準として応用するためには、複数の階層の中から複数の手法を用いて、共通して得られる結果から生物学的に活性が変化しているパスウェイを同定するシステムを構築することが必要である。また結果の再現性と信頼性をスコア化して、実臨床で評価すべき変異か否かを臨床医が判断するための基準となる解析パイプラインを整備する。②血液を用いた継時的な腫瘍ゲノム診断と免疫原性のある腫瘍抗原の同定。臨床治療経過の中で、特に近年卵巣癌で臨床導入されている分子標的治療薬アバスチンやオラパリブを再発治療中に投与する過程で、患者末梢血から得られるリキッドバイオプシーから腫瘍由来のcell free DNAと免疫細胞を含むPBMCを採取し、腫瘍ゲノムと免疫ゲノムの多様性とその治療予測あるいは抗腫瘍効果を示す免疫バイオマーカーを探索する。③マウス卵巣癌細胞株、動物モデルを用いた解析。マウスの卵巣癌細胞株に免疫抑制因子であるPD-L1をはじめB7ファミリーの遺伝子導入を行い、過剰発現した細胞株を用いた治療実験を行う。アバスチン、オラパリブあるいは新規分子標的薬を用いてフェノタイプ(増殖能、浸潤能)や腫瘍免疫(免疫応答、免疫抑制)の変化を評価する。播種/転移、薬剤耐性、腫瘍免疫原性へのどのように各種免疫抑制因子が関与するかを動物実験で確認し、その変異の機能も明らかにする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
J Clin Invest
巻: Apr 2;128(4) ページ: 1708
10.1172/JCI120803
J Biomed Sci
巻: Apr 4;24(1) ページ: 26 \
10.1186/s12929-017-0329-9
Cancer Lett.
巻: Oct 1 ページ: 22-28
10.1016/j.canlet.2017.07.013