研究課題/領域番号 |
16H05489
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安近 健太郎 京都大学, 医学研究科, 講師 (00378895)
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研究分担者 |
上本 伸二 京都大学, 医学研究科, 教授 (40252449)
石井 隆道 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (70456789)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 再生医療 / 組織工学 / 肝臓移植 / ヒトiPS細胞 / 人工臓器 |
研究実績の概要 |
前年度までに開始した先行研究として、我々はすでにラット生体肝臓を脱細胞化し肝臓の3次元scaffoldを作製する技術を獲得していた。また、我々がすでに確立した方法(K. Yasuchika et.al Hepatology 2002)に基づいて初代培養したマウス胎仔肝細胞および成体肝細胞を脱細胞化肝臓(3D scaffold)へ注入するとともに、再細胞化した肝臓を循環培養する実験を進めていた。平成28年度は脱細胞化・再細胞化プロトコールの最適化を目的に再細胞化肝臓のviability、functionの評価を行なった結果、細胞混濁液の濃度、注入速度の至適プロトコールを調整のうえ、6.0 x 106の細胞を注入する条件下での比較において、従来主流であった経門脈的再細胞化よりも経胆管的再細胞化において優位に高い生着効率(20.1% vs 81.3%)が得られ、かつ生着した細胞のviabilityも高いことを確認した。その上で再細胞化後の低速循環培養プロトコール(3時間静置に引き続き細胞培養液を0.5ml/hの速度で7日間還流培養)を確立し、再細胞化された胎仔肝前駆細胞は増殖活性を保ちつつ、脱細胞化肝臓の中で肝細胞へ成熟化することがアルブミン合成能および尿素合成能で確認されたほか、胆管細胞への分化も組織学的に確認できたことから、再細胞化肝臓作製における細胞源として胎仔肝前駆細胞の有用性が示された。上記のプロトコール最適化を基に、サイズの大きなヒト細胞の再細胞化へ向けた脱細胞化肝臓への新規の細胞注入方法の有効性を検証した。 一方で、京都大学iPS細胞研究センター(CiRA)との共同研究によりヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導法の確立を検証するとともに、誘導されたヒト肝細胞を安定的に再細胞化するための細胞浮遊液の調整方法を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<新規注入方法の検証> ・投与ルート: 肝実質細胞の投与ルートとして一般的に選択される経門脈的投与の場合は投与細胞が門脈壁基底膜構造を越えてparenchymal spaceへ移動しなければならない。一方、解剖学的特徴を勘案すると、胆管内腔は大きな基底膜構造を介さずにparenchymal spaceに連続していると考えられるため、経胆管的投与により実質細胞が有効にparenchymal spaceに分布するかどうかを検証し、経胆管的投与プロトコールの最適化を行った。その結果、従来主流であった経門脈的再細胞化より経胆管的再細胞化において優位に高い生着効率(20.1% vs 81.3%)が得られ、かつ生着した細胞のviabilityも高いことを確認した。 ・投与細胞の調整法:大きな構造的障壁がなく投与可能となることが想定されることから、投与細胞をsingle cell化する必要が低く、実質細胞のviabilityを落とすことなく一定の凝集塊として投与可能であるかどうかも検証した。 ・分布後の機能検証:再細胞化された実質細胞に対してKi67染色・Tunnel染色によりviabilityおよび増殖活性を検証するとともに、免疫染色(albumin, CK19, AFP)により特性解析を行った。マウス胎仔肝前駆細胞とは異なり、再細胞化されたヒトiPS細胞由来肝(前駆)細胞は胆管細胞への分化所見は認めず、肝細胞特性のみを発現していた。 <ヒトiPS細胞の肝細胞分化> 当研究室ではすでに京都大学iPS細胞研究センター(CiRA)山中研究室との共同研究によりヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導に成功していたが、その後も当研究室の大学院生がCiRA(長船研究室)にて継続的にヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導技術を確立していた。本年度は新たに大学院生を派遣してこの技術の継承と維持を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も京都大学iPS細胞研究センター(CiRA)長船研究室の協力のもとに当研究室におけるヒトiPS細胞由来肝細胞の分化誘導法の継承・維持を継続する。さらに、上記のごとく脱細胞化肝臓に再細胞化されたヒトiPS細胞由来肝細胞は胆管細胞の特性を持たなかったことを踏まえて、より生理的肝臓組織の構築を目指してヒトiPS細胞由来胆管細胞の分化誘導とその再細胞化を考慮する。一方、平成28年度に当研究室では肝細胞を経胆管的に再細胞化するとともに、ラット肝臓から採取・初代培養した類洞内皮細胞(LSEC)を経門脈的に再細胞化することで、肝実質腔に肝細胞を分布させるとともに類洞内には内皮細胞を持つ、より生理的な臓器形成を目指した実験も行った。その結果、再細胞化されたLSECは生着して特異的表面抗原(SE-1)を発現することが免疫組織学的に確認されるとともに、類洞内皮の特異的構造であるfenestration形成が電子顕微鏡的に確認されたほか、経胆管的に肝細胞のみを再細胞化した肝臓と、肝細胞に加えて経門脈的にLSECを再細胞化した肝臓に実際に血液灌流させ、LSECを再細胞化させた肝臓において血栓形成が抑制されることをintegrinαIIb発現により定量的に評価しただけでなく、肝細胞障害が軽減されることをTUNEL染色により確認し、移植可能グラフト作製へ向けた可能性を示した。この研究結果も踏まえて、今後はヒトiPS細胞由来内皮細胞の分化誘導法の確立を試みる予定である。ヒトiPS細胞由来の肝細胞、胆管細胞、血管内皮細胞が獲得できるようになれば、将来的には完全に自己細胞から構成されることにより免疫拒絶反応を惹起させず、かつ血液灌流可能な移植可能ヒト人工肝臓の作製へ向けて研究を推進する。
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