研究課題
敗血症ショックを招く病原性微生物種および種の特性(病原性、感染性、薬剤耐性等)を解明し、これらを迅速に診断できる技術を確立するため、敗血症ショックを罹患した患者さんから採取した病原性微生物の全ゲノム配列を決定し、その特徴を明らかにして、死亡率の改善ができなかった敗血症ショックへの新たな医療対応への重要な基盤情報を提供することが本課題の目標となる。H28年度は、ショック患者さんに検出される病原性微生物の全ゲノム配列決定技術確立と体制構築を目標とした。まずは、敗血症患者さんの血液中の病原性微生物の全ゲノム配列を直接決定できるかを試みたが、残念ながら、DNA量が少なく、高感度検出の工夫を行わないと解析困難であることが判明したので、当アプローチを一時中断した。次に、血液の培養系を用い、敗血症ショック関与の可能性の高い病原性微生物(緑膿菌、クレブシェラ、エンテロバクター)の全ゲノム配列決定をPacBioRSⅡにて実施した。PacBioRSⅡはlong read(~12kb/DNA断片)が可能で、病原性微生物に頻繁に生じる構造変異を検出するのに最適で、リード200coverage以上を用いたde novo assembleにて、高精度:QV>=50(1bミスリード/100,000b)塩基配列決定に成功した。既知各菌種の全ゲノム配列と比較し、相同性は90%以下、構造変異を含め、多くの配列の違いが検出できたので、全ゲノム配列決定を実現する体制が整ったので、診療情報と照合し、特性に関与する配列決定が実現できる状況となった。H29年度は、多数の症例について解析を行い、敗血症ショックに関連する病原性微生物種の全ゲノム配列を決定し、H30年度は、症例追加を継続しながら、敗血症ショックを招く病原性微生物種の割合と配列特性を解析し、診断に繋げる計画である。
2: おおむね順調に進展している
H28年度は、敗血症ショック患者さんに検出される病原性微生物の全ゲノム配列決定技術の確立と体制整備を目標とした。まず、敗血症ショック罹患者の血中病原性微生物について、培養工程なしに直接、全ゲノム配列を直接決定できるかを調査するため、幾つかのDNA精製キットを試したが、次世代シーケンサ―が実施できるDNA量が採取できず、高感度測定の工夫を要することが判明し、当アプロ―チは一時中断した。病原性、感染性、薬剤耐性などに関連する配列特性が判明すれば、PCR法等で、高感度検出を実現できるが、ショックに関連する病原性微生物の配列特性が確定しない状況下で実施するメリットはない。そこで、血中に存在する病原性微生物を培養できる体制を確立し、患者さんから得た敗血症ショックに関連した疑いの強い病原性微生物(緑膿菌、クレブシェラ、エンテロバクター)を培養し、全ゲノム配列決定をPacBioRSⅡにて実施した。前記3種の微生物は、いずれも(我々とは異なる株)での全ゲノム配列が報告されていて、ゲノムサイズは5~7Mbであることは判明している。我々が取得した株でのPacBioRSⅡによるリード数200coverage以上のde novo assembleによる全ゲノム配列解析では、前記報告株の配列に比し、その一致率は90%以下で、variationの中にはstructure variationを含む、各株の配列が決定できた。精度はQV>50(1bミスリード/100,000b)で、さらに高精度化するのであればcoverageを高めれば良いことが判明しているので、敗血症に関連する病原性微生物を解析できる体制および技術が整ったと判断した。そこで、次年度は症例数を200に設定し、敗血症に関連する病原性微生物種の割合ならびに敗血症ショックに関連する配列特性を調査が開始できる体制が整った。
H29年度は、敗血症ショックを招いている病原性微生物種の割合を調査すると共に、各種微生物の敗血症ショックと関連する配列を解明するために、敗血症ショック患者さんの血中に検出される病原性微生物の全ゲノム配列決定を解析症例目標数200として、培養系を用いて実施する。なお、敗血症ショック患者さんに検出される病原性微生物種は、その種の数が多くなるほど、病原性微生物1種あたりの症例が少なくなり、ショックに関連する配列特性を同定するための検出力が低下する恐れがある。そこで、全ゲノムシーケンスを実施した症例が100に到達した時点で、解析された病原性微生物種と各種の株数をカウントして、その後の計画の軌道修正を行う予定である。方針としては、病原性微生物種が多岐に渡ることが判明した際には、全ゲノムシーケンスを実施する前に病原性微生物種の検査を挟んで、ショックの重度と照合して微生物を数種に限定して解析するか、あるいは、解析目標数を増やし、coverageを100程度(PacBio社では80coverageでde novo assembleは可能としている)まで低下させてbarcodeを用いた試験(1検体ずつに異なる人工合成した病原性微生物に無いDNA配列を結合させ、1反応に混在する複数の試料を識別しながら、各試料の全ゲノム配列を決定すること)を実施するかを判断する。なお、coverageを低下させた場合には、“de novo assembleに支障が生じない”、あるいは、“解析によって得られたシーケンス精度を維持できるか”を検証した上で、実施する計画である。また、H30年度は、全ゲノムシーケンス数を追加しながら、敗血症ショックを招く病原性微生物種とショックに関連する配列特性を同定するための解析を行う計画である。
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