研究実績の概要 |
A群レンサ球菌(Group A Streptococcus, 以下GASと示す)は、幅広い症状を呈することが知られている。症状を全く引き起こさないこともあれば、咽頭炎、扁桃炎といった軽症(世界で年間6億人)、致死率が30%を超える劇症型感染症(世界で年間50万人)を引き起こすこともあり、臨床的にも重要な病原細菌である。 本研究では従来考慮されてこなかった「非劇症型株」を合計259株用いて比較ゲノム解析を実施し、A群レンサ球菌の「株特異的病原性発揮機構」を情報学的に明らかとしてきた。具体的には、i) 劇症型株に特異的に保存されている新規SNPsを多数同定し、ii) 劇症型特異的に優占するファージと外来性病原因子や、iii) ファージ由来メチラーゼによるメチル化パターンが病原因子により異なることを見出した。また、本種の多様化においては、原核生物の獲得免疫システム(CRISPR)と病原因子の運搬役であるバクテリオファージの関わりが主要な役割を果たし、CRISPRの欠失が一つの種内を大きく2つのグループに分ける要因になっていることを明らかにした。各グループの特徴として、CRISPRを保有するグループはゲノムを構成する遺伝子数がほぼ一定で保守的であるのに対し、CRISPRを欠損したグループはゲノム上に多様なファージの出入りがあり、種としては多数の遺伝子種を保有するが、全株共有の遺伝子種はCRISPR保有型に比べ少なくなっていた。すなわち、「ファージを介したゲノム縮小という新規ゲノム進化機構」の存在を明らかにすることができた。
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