研究課題
運動器の主な構成要素である骨と筋肉は、ヒト組織重量の約70%を占める臓器であり、動的な恒常性を維持しながら統合的な運動機能を実現している。顎骨には歯牙が植立していることから、咀嚼筋を介した力学的な負荷に加え、歯を介した咬合力が、顎骨に直接影響を与えることで、その骨量や構造の変化に深く関わっている。このため、加齢や歯周病などの口腔疾患を起因とする歯の脱落・喪失は、力学的負荷を失い廃用性の咀嚼筋委縮や顎骨骨粗鬆症を誘導する。さらに、歯の脱落・喪失に伴う咀嚼機能の破綻は、認知症や記憶障害をはじめ様々な疾患を発症することが知られており、老化に伴う運動機能の低下による寝たきり状態もまた、記憶や学習能力に影響を与えていることを、我々は経験的に理解している。これらの知見を我々は経験的に理解している。記憶・学習は、高度な知的活動を司る重要な役割を担うだけでなく、食物摂取や危険回避などすべての動物において生命の維持活動に直結する重要な高次機能である。これまで、高次機能と運動器は、個々が独立した基礎医学系分野を形成し発展してきた。その制御機構として、サイトカインやホルモン、神経系などの関与が、個別に明らかにされてきたが、統合的な運動器と高次機能の連関システムが存在し、その破綻が様々な疾患に繋がっているのかについては、いまだ明確な解答は得られていない。本研究では、咀嚼・運動機能の不全・亢進を呈する新規マウスモデルの構築と網羅的な遺伝子発現解析から、高齢化社会の亢進に伴い大きな社会問題である咀嚼・運動機能と高次機能の連関クロストークの実態に迫り、その統合的な理解と破綻メカニズムを解明し、顎口腔機能に関連する疾患の制圧・予防を目指した革新的な分子基盤の確立を目的としている。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度研究では、運動機能と高次脳機能の連関クロストークの解明するため、咀嚼機能の破綻状態や寝たきりを再現する新規モデルを構築・解析に取り組んだ。現在、遺伝子改変システムによる無歯顎骨モデルや廃用性運動機能低下モデルに加え、自発的な食事による咀嚼メカニカルストレスを免荷した新規咀嚼機能低下モデルの構築・解析が順調に進んでいる。さらに、学習・記憶の実験系の構築から、咀嚼機能の低下が高次脳機能の抑制に働いていることが見出されたことは、今期の研究で大きな成果であると考えられる。このメカニズムとして、神経細胞の発生・生存、そして、活性化か強く関係している可能性が予備的な実験から示唆されており、咀嚼機能と高次脳機能の連関クロストークを解明する足掛かりになることが予測された。来期に繋がる重点ポイントとして研究を進める必要があると考えられる。
新規咀嚼機能低下モデルにおける骨・咀嚼筋や顎骨などの運動器と脳のサンプルを獲得し、網羅的なプロテオームやトランスクリプトーム解析によって、運動器の変動と学習・記憶形成の連関を司る遺伝子・タンパク質基盤情報のプラットホーム化を加速させる必要がある。また、新規咀嚼機能強化モデルおよび運動機能亢進モデルを確立し、咀嚼・運動機能の変化と行動特性の連関解析に繋げ、ゲノムワイドな網羅解析を基盤とした連関因子の同定のためのサンプル獲得に注力する。さらに、選抜された候補遺伝子の細胞・臓器特異的な遺伝子改変マウスの作成・解析から、咀嚼・運動機能と高次機能の連関システムを生体レベルで評価を目指すことで、分子生物学と遺伝子工学を融合したアプローチから、細胞・生体レベルでの咀嚼・運動機能と高次機能の連関クロストークの全貌を解明し、新たな学際領域の提唱を目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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