研究課題
我々は、キナーゼ活性を有するユニークなCa2+透過型陽イオンチャネルであるTRPM7が、生体中でも特に象牙芽細胞やエナメル芽細胞に極めて高発現し、この分子が歯の石灰化を担うことを発見した。本研究は歯の石灰化調節におけるTRPM7のイオンチャネルとしてのミネラル輸送機能とキナーゼとしてのリン酸化機能の役割やこれに続くシグナル伝達機構を、in vitro実験系と我々が開発した歯の細胞に特異的なTRPM7コンデョショナル欠損マウスやTRPM7キナーゼ変異マウスを用いたin vivo実験系で解明することにある。また、歯に高発現するTRPM7をプロモーターとしたTRPM7-Creマウスを作製し、新規の歯特異的な遺伝子改変システムの開発にも取り組む。これらの取組みは、歯の発育障害の病態解明や歯の再生研究へ新しい戦略を提供すると考えられる。TRPM7-floxマウスと、象牙芽細胞に特異的的なWnt-Creマウス及びエナメル芽細胞に特異的なCK14-Creマウスの交配により、象牙芽細胞及びエナメル芽細胞に特異的なTRPM7コンディショナル欠損マウスを作製に成功し、これらの特異的欠損マウスでは歯質の形成不全が認められた。また、キナーゼドメインの点変異(K1646R)によるTRPM7αキナーゼ変異マウスのin vivo及びin vitro解析も行い、エナメル質の石灰化不全と共にBMPシグナル経路のリン酸化抑制が認められた。一方、TRPM7プロモーターを利用した歯特異的なCreマウスの作製に取組み、作出の最終段階に入っている。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、当初の計画に沿って下記①~③の実験を実施し実績を得た。①TRPM7-floxマウスと、象牙芽細胞に特異的的なWnt-Creマウス及びエナメル芽細胞に特異的なCK14-Creマウスの交配により、象牙芽細胞及びエナメル芽細胞に特異的なTRPM7コンディショナル欠損マウスを作製に成功した。これらの特異的欠損マウスのin vivo解析の結果、歯質の形成不全が認められた。②キナーゼドメインの点変異(K1646R)によるTRPM7αキナーゼ変異マウスのin vivo及びin vitro解析を行い、エナメル質の石灰化不全と共に、エナメル芽細胞にBMPシグナル経路のリン酸化抑制が認められた。③歯に特異的に高発現するTRPM7遺伝子のプロモーター調節下にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウス(TRPM7-Cre)の作製に取組んだ。ベクター構築、インジェクションと産子取得、ファウンダー同定、F1マウス作製、レポーターマウス個体復元、F2マウス作製を経てCreマウス作製までの過程の多くは実績のある開発業者に委託し、平成28年度予算の一部はこのTRPM7-Creマウス作製費用に充当した。現在、最終段階に入っている。以上の①と②に関しては、研究計画上、充分な研究結果が得られており、③に関してはTRPM7-Creマウス作製の最終段階である。従って、平成28年度の研究計画の達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度に得られた結果を基にして、以下の計画を進める。① 平成28年度、象牙芽細胞及びエナメル芽細胞に特異的なTRPM7コンディショナル欠損マウスを作製に成功した。エナメル芽細胞特異的欠損マウスはエナメル質形成不全を呈したので、本年度はTRPM7の歯質形成や石灰化過程におけるin vivoでの役割を明確にする。また、タンパク質リン酸化を指標にTRPM7αキナーゼ変異マウスのin vivo解析を行い、TRPM7の有するイオンチャネル機能の重要性とαキナーゼ活性の役割を検討する。②平成28年度、TRPM7コンディショナル欠損マウスやTRPM7αキナーゼ変異マウスの切歯や歯胚を用いて、TRPM7欠損型、及びキナーゼ活性欠失型の象牙芽細胞及びエナメル芽細胞の採集が可能となった。本年度は、これらの変異マウスのTRPM7チャネルを介するミネラル透過性陽イオン電流と細胞内Ca2+やMg2+等のミネラル濃度変化を解析する。また、エナメル芽細胞及び象牙芽細胞の細胞株を用いて、TRPM7ノックダウンやキナーゼ阻害を行ったときの石灰化誘導培養液による石灰化誘導能を評価する。これらの結果をまとめて、TRPM7分子のミネラル輸送機能やキナーゼ活性機能の役割を検討する。③平成28年度、歯に特異的に高発現するTRPM7遺伝子のプロモーター調節下にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウス(TRPM7-Cre)の作製に取組み、現在、F2マウス作製を経て交配にてCreマウスの出産を待っている。このCreマウスが実験ラインに乗り次第、歯の石灰化に関わる輸送体であるCNNM4やプロトンポンプ等のfloxマウスとの交配で歯特異的なCNNM4やプロトンポンプのコンディショナル欠損マウスを作製し、TRPM7との共役を検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.college.fdcnet.ac.jp/