研究課題
本研究では、歯や唾液腺形成機構の解明を目的とし、特に細胞間結合分子ギャップジャンクションに着目し研究を進めてきた。これら器官の発生段階における遺伝子発現を網羅的に解析する為に、これまで行ってきたマイクロアレー、SAGEライブラリースクリーニング、CAGE法に加え、単一細胞内の遺伝子発現解析としてsingle RNA sequenceによる解析を行った。これまでギャップ結合分子コネキシン43の歯胚および唾液腺の発現解析を行っていたが、発生の初期段階の上皮細胞および、象牙芽細胞等の間葉系細胞に強く発現することを見出していたが、今回の単一細胞を用いた包括的な遺伝子スクリーニングから、成熟過程のエナメル芽細胞には発現が認められず、外エナメル芽細胞、星状網、中間層細胞の融合によって形成される乳頭層細胞に強い発現が認められことを見出した。実際にマウス切歯を用いた免疫染色にて確認した結果、single RNA sequenceの結果と同様のコネキシン43の組織発現を確認することができた。また間葉系細胞に発現するコネキシン43は、未分化な象牙芽細胞には発現せずに、分化した細胞に特異的に発現していることを確認した。同様の結果は骨組織においても確認され、骨芽細胞から骨細胞に分化する際に強く発現していた。一方、ギャップ結合分子パネキシン3については、象牙芽細胞細胞には発現が認められず、未分化な前象牙芽細胞に発現が認められた。これら分子の細胞内での機能を明らかにする目的で、機能阻害ペプチドを作成した、この機能阻害ペプチドは、ギャップ結合分子の6量体形成を阻害し、外部からのカルシウム流入を阻害した。この機能阻害ペプチドを用いることで、BMP2等の増殖因子による象牙芽細胞分化の抑制が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、従来の包括的な遺伝子スクリーニングに加え、single RNA sequenceといった新しい手法での遺伝子スクリーニングを実施することができた。本解析により、これまでに発生段階のあるステージの断片的な遺伝子発現の解析であったものが、全てのギャップ結合分子群の連続的な発現様式を把握することができた。実際、構築したデータベース上でのスクリーニングが、組織内での分子発現と完全に一致することを見出し、当初の予定以上に研究を進めることができた。一方で、コネキシン43とパネキシン3欠損マウスの解析においては、米国国立衛生研究所との共同研究で実施していたが、何れのマウスも致死的である為、新たにコンディショナル欠損マウスの解析などとの組み合わせを用いて行っていた。しかしながら、複数のマウス等の掛け合わせにより目的のマウスを作出するため、十分な解析マウスを得ることができず、in vivo解析については、予定よりも遅れた状況となっている。In vitro解析においては、培養細胞および器官培養系において、従来の方法に比較して効率よくコネキシン43、あるいはパネキシン3を抑制するペプチドと抗体の作成に成功し、将来創薬として使用可能な基盤技術の開発に成功することができた。
コネキシン43、あるいはパネキシン3のギャップジャンクションとしての機能抑制が可能となったため、これらを用いた歯胚および唾液腺の形成について器官培養系を用いた解析により、これら分子のギャップジャンクションあるいはヘミチャンネルとしての機能をうまく分離しながら、増殖因子シグナルの制御機構を明らかにする。また、歯および唾液腺の発生段階において、コネキシン43が発現していない時期に発現しているギャップジャンクション分子(既に同定済み)についても、その役割について、ヒト疾患データベースであるOMIMを用いた疾患との関連性のスクリーニングを実施する。また各ギャップジャンクション分子の組織発現を免疫染色やin situ hybridization法を用いて明らかにし、既に遺伝子欠損マウスが存在するものについては入手するとともに、iPS細胞からの人為的歯原性上皮細胞誘導法を用いて、発生過程における機能解析を進める。
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Molecular Cell.
巻: 68 ページ: 645-658
10.1016/j.molcel.2017.10.018.