研究実績の概要 |
高齢化の進む日本では認知症有病者数は増大しつづけており、厚生労働省によると2025年には700万人(5人に1人)が認知症を有すると推測されている。認知症は突然発症するのではなく、健常な状態から軽度認知障害(MCI)、そして認知症と段階を経て発症するため、認知症に至る前のMCIの状態をスクリーニングで発見する必要性が重視されている。そこで口腔機能とMCIの関連を検討することを研究の目的とした。平成28年度に質問紙を作成し、日本老年学的評価研究プロジェクトの一環として高齢者を対象とした疫学調査を実施し、口腔の健康や認知機能についてのデータを得た。平成29年度にデータベースの作成と解析を開始し平成30年度も引き続き解析を行った。 調査対象者の平均年齢は75.2歳(SD=6.2)であった。MCIの症状がある者は70,566人(47.6%)、噛み合わせの悪い者は19,777人(19.8%)であった。噛み合わせの良い者のうちMCIの症状がある者は56,076人(45.5%)、噛み合わせが悪い者のうちMCIの症状がある人は11,635人(58.8%)であった。年齢などの全ての交絡因子を調整した多変量解析の結果、噛み合わせの良い者に比較して噛み合わせの悪い者でMCIを有する有病率比が有意に高かった (PR:1.27 95%CI:1.25-1.28)。ここから主観的な噛み合わせが悪いことがMCIを有することと関連することが明らかになった。交絡因子として現在歯数と義歯の使用の有無を調整した上でも有意な関連が認められたことから、主観的な噛み合わせが独立したファクターとして認知機能に関連している可能性が明らかにされた。これらの解析のほか、得られたデータからいくつかの疫学研究も実施した。
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