研究課題/領域番号 |
16H05571
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
川野 常夫 摂南大学, 理工学部, 教授 (90152983)
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研究分担者 |
真嶋 由貴恵 大阪府立大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70285360)
前川 泰子 香川大学, 医学部, 教授 (60353033)
片桐 真子 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (50359379)
石亀 篤司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60212867)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 看護熟練者 / 生体リズム / 脳活動 / 筋負担 / 同調現象 / 介助学習支援 / 拡張現実感 |
研究実績の概要 |
要介護高齢者のQOLの向上,および看護または介護する側の負担の軽減を達成するために,高齢者の身体的生体リズム,あるいは感情的生体リズムに同調する熟練看護の「技(わざ)」や「コツ」などの「暗黙知」を実験的に定量化し,それらを体得するトレーニングのための介助学習支援システムの構築を目的として,今年度は,介助者(看護師)と被介助者の実際の介助動作を対象として同調現象の実測を行った。実測では5組の介助者と被介助者を対象とした。介助動作として,ベッド上の仰臥位の被介助者を座位姿勢になるように介助する動作,およびベッド上で端座位の被介助者をそばの車いすに移乗する介助動作を取り上げた。これらの動作中の生体リズムとして,慣性式モーションキャプチャーによる体動の測定と筋電図による筋負担の測定を同時に行った。また,NIRSによる動作中の両者の脳血流の測定も行った。 その結果,被験者の組数は少ないものの,介助作業時には看護熟練者と被介助者の間に同調現象がみられる傾向が確認された。また,看護熟練者と被介助者間の同調の程度と介助者の負担の間には負の相関関係がある,すなわち,2人の動作リズムが同調することによって,介助者の筋負担が減少する傾向も認められた。今後,さらに被験者の組数を増やして,そのような傾向の確からしさを検証する。 また,介助作業中の看護熟練者の援助割合は約3割であるのに対して,未習熟の介助者の援助割合はそれよりも高い傾向がみられた。これに関しても今後追加実験を行う予定である。 さらに,拡張現実感による仮想の被介助者を抱き上げたときの「重さ感覚」について,人工負荷発生装置の開発に取り組み,いくつかの方法論を検討した。今後は,実機の製作に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において確立した生体リズムの測定方法を,実際の看護師による介助作業に適用し,実績の概要に述べたように,介助作業時には看護熟練者と被介助者の間に同調現象がみられる傾向が確認された。また,看護熟練者と被介助者間の同調の程度と介助者の負担の間には負の相関関係がある,すなわち,2人の動作リズムが同調することによって,介助者の筋負担が減少する傾向も認められた。これらの成果は,本研究が主として目指したものであり,その成果は極めて新規性がある。これらの成果については,本年8月にイタリアで開催される国際会議「IEA2018-20th Triennial Congress of International Ergonomics Association」にて発表を予定している。 当初の計画であった被介助者の残存能力(筋力)と最適援助のあり方については,看護熟練者と未熟練者の援助割合の比較を行ったが,被験者が少なく,最適な力学的援助の割合を解明するまでには至っていない。今後,被験者を増やして追加実験を行い,最適援助のあり方を解明する。 以上から,本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに取り組んだ介助者と被介助者の同調現象の解明については,今年度も継続して追加実験を行い,看護熟練者の被介助者との同調現象をより明確に定量化する。看護熟練者の援助割合と被介助者の残存能力についての追加実験も行い,これまでの結果をより確かなものとする。 次いで,拡張現実感による看護初学者のための介助学習支援システムを開発する。介助の実習生(初学者)はメガネ型の透過型ディスプレイをつけ,腕で人工負荷発生装置を把持する。目の前には現実のベッドに横たわる被介助者が3次元CGにより見えるようにする。そのために仮想のデジタルヒューマンを開発し,身長や体重,性別,残存筋力や障害の程度を任意に設定することができ,瞬時に変更も可能であるようなモデルを開発する。 仮想の被介助者を抱き上げたときの「重さ感覚」を実現するために,人工負荷発生装置を開発する。昨年度において開発のための試行錯誤を繰り返したが,本年度はそれを継続し,完成させる。人工負荷は体重や障害の程度,および被介助者の姿勢に応じて,リアルタイムに自動的に修正されるようにする。 最後には,介助学習支援システムを完成し,実際に使用可能かどうか,介助学習にとって有効であるかどうかを検討する。 本年度は本研究の最終年度であるため,これまでの研究成果を国内学会や国際会議において発表を行う。
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