研究課題/領域番号 |
16H05583
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
中山 優季 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, プロジェクトリーダー (00455396)
|
研究分担者 |
清水 俊夫 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (50466207)
神作 憲司 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (60399318)
長尾 雅裕 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (60466208)
小森 隆司 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳発達・神経再生研究分野, 研究員 (90205526)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / Brain Machine Interface / 意思伝達支援 / 生体信号 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
経過観察に基づく症状観察では、気管切開人工呼吸ALS患者における陰性兆候や合併症をNon‐Motor Manifestations(非運動症状)として、出現頻度や病態との関係を国際誌に報告し、ALSの障害が運動神経にとどまらないことを意味する知見を得た。 技術開発では、在宅のALS患者(5名)を対象として、BMI機器(B-assist)を用いたデータ収集を行った。患者居宅にて、研究者の説明のもと、患者家族および医療スタッフが機器を操作して実験を行い実用的とされる精度での動作が可能であることを確認した。 生理学的評価では、病初期の生理学的な変化が,生命予後や呼吸器装着後のコミュニケーション障害を予測する因子となるかどうかを検討するために,病初期のALS患者において正中神経刺激体性感覚誘発電位(SEP)のN20の振幅と生命予後との関連を調査したところ,N20が大きい患者ほど生命予後が悪いという結果が示され,大脳感覚野の興奮性の増大がその後進行速度を予測しうることが示唆された。画像評価では、脳幹の萎縮とコミュニケーションステージの関係を検討し、中脳、橋、延髄のすべてで萎縮が進行し、ステージI とVに有意差が見られた。継時的な脳幹の計測によりステージVに至る時期を推定できる可能性があるのと同時に、萎縮の進行の差がALSのコミュニケーションステージの差だけでなく解剖学的な差の有無に関連する可能性があることが示唆された。 病理学的検索では、9例のALS/FTLDの解剖を行った。平均年齢は72.9歳(71-86歳)、平均罹病期間は3.99年と高齢化の傾向が見られた。呼吸器装着例はなく、家族歴もみられなかったが、1例でTRK-fused gene (TFG)変異を有するALSの初めての剖検を実施し、TDP-43陽性封入体を伴う古典的ALSであることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前向き調査の継続により、気管切開人工呼吸(TIV)のALS患者におけるNon‐Motor Manifestations(非運動症状)を提唱(muscle and nerve2017)し、同誌の書評に取り上げられるなど予想以上の成果を上げたといえる。 生体信号を用いた意思伝達装置に関する適応評価は、BMI機器(B-assist)については、対象者数の漸増と自宅試用に向けた取り組みを行えている。一方、同一対象者における継続評価が対象の全身状態悪化により中断を強いられる場合があり、当初予定より遅れている。 臨床神経学的調査においては,呼吸器装着後の進行期における意思伝達障害の予測が可能な臨床的・生理学的因子を探索する上で,一次感覚野の興奮性が有用である可能性があることがわかり,大きな成果を上げられたと言える。予後を予測する多角的な臨床指標の確立が今後も求められる。 病理学的評価については、気管切開人工呼吸装着者の剖検例が本年はおらず、呼吸器非装着例の検討から、その後の進行の程度を検討した。 各課題について、達成度に若干の幅はあるものの、全体として、ほぼ計画通りに進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
経過追跡対象者のステージ変化について、最終年度に向け、蓄積を重ねる。対象に生じたNon‐Motor Manifestations(非運動症状)について、対応策について検討し、看護ケアの方策としてまとめていく。さらに、既存の2種の装置に加え、近年実用化が進んでいる生体反応を捉える装置を追加し、対象のステージ変化における機器の適応状態を追跡する。 技術班が開発中のBMI機器(B-assist)については、引き続きユーザービリティーの向上を図り、生活の中での普及につなげていく。 臨床神経学的評価では、気管切開までのいくつか臨床徴候(体格指数の減少、体性感覚誘発電位、脳幹の萎縮など)がその後の進行を規定しうることが明らかになりつつある。このような評価指標の探索と臨床的意義の検討を重ね、病態生理の解明に迫る。とくに病初期に増大している運動野・感覚野の興奮性が,呼吸器装着後にどのように推移するかを検討していく。 病理学的検索については、stage分類の視点および生理学的所見を踏まえ、多様性について検討し、病理学的背景を整理する。家族性ALSの後ろ向きの検討では、SOD1変異例がもっとも多い反面、臨床像、特に予後が変異部位によって著しく異なることから、患者のケア指針の開発の観点からは、孤発例をスクリーニングすることが重要であると考えられた。 以上、看護・脳神経・病理による研究を統合し、保たれる神経経路を活用した意思伝達手段の開発と病態解明の一助となる成果をあげるべく、研究を推進する。
|