研究課題/領域番号 |
16H05617
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
塚脇 真二 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (00222133)
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研究分担者 |
荒木 祐二 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (00533986)
大高 明史 弘前大学, 教育学部, 教授 (20223844)
石川 俊之 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (50396313)
大八木 英夫 日本大学, 文理学部, 助教 (50453866)
本村 浩之 鹿児島大学, 総合研究博物館, 教授 (90433086)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トンレサップ湖 / 生物多様性 / 環境動態 / 生態系 / メコン河 |
研究実績の概要 |
カンボジアのトンレサップ湖は,季節によって面積が大きく変化する特異性と,淡水域としては世界でも最高レベルの生物多様性で知られる湖沼であるが,近年の同国や周辺諸国での社会経済の発展によって,同湖の自然環境は激変し,さらにはメコン河本流でのダム計画の推進によって,同湖の豊かな生態系や自然環境は壊滅の危機に瀕している.本申請研究は,同湖において12年前に実施した生物多様性調査の成果をふまえ,当時と同様の総合調査を再実施し,生物群集や環境条件の現状を明らかにするとともに,その変化を定量的に解析したうえで,その変化を引き起こした外的要因を特定する.さらにはこの湖に特有のアジア熱帯淡水生物相を保全するための方策を検討する. 平成28年度には,上述の研究課題を達成するために,5月に開催した本研究参加者全員による研究打ち合わせと,6月に実施したカンボジアのカウンターパートとの打ち合わせならびに予察的現地調査の結果をふまえ,湖底地質学,水文学,植物動態学,無脊椎動物学ならびに魚類学にかかる総合調査を,同湖が最高水位期となる10月下旬と減水期末となる3月初旬に同湖北部シェムリアプ沖から同湖北半部にかけて,また,減水期初期の12月に同湖南部のコンポンチュナンから同湖南半部にかけての地域でそれぞれ実施した.また,植物動態と魚類にかかる調査は増水期の8月にも実施している.これに加えて同湖の生態系の変化への影響が想定されるメコン河流域の開発状況を定性的に把握するため,10月と11月に首都プノンペンからその上流のコンポンチャムにかけて,また,2月にメコン河下流部のミトー周辺地域において,同河流域を視察するとともにプノンペンならびにホーチミンの関係機関で開発状況にかかる文献調査を行った.また,国外研究者を含めた本研究参加者による本年度の調査結果にかかる研究打ち合わせを金沢で3月に開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度のトンレサップ湖の調査にあたり,アンコール世界遺産の観光産業の発達と関連した湖畔地域の開発が著しい同湖北部のシェムリアプ沖,ならびに季節による環境条件の変化が著しくまた水生外来種の侵入経路と想定される同湖南部のチュノック・トルー沖を重点調査地域に当初に設定し,湖底堆積物,水質や水文状況,周辺植生動態,水中光環境や一次生産,底生・浮遊性無脊椎動物や水生昆虫,および魚類にかかる総合調査を,増水期となる8月下旬,最高水位期となる11月上旬,および減水期となる2月中旬にそれぞれ約2週間実施する予定であった. しかし,6月に実施した同湖北部ならびに南部での予備調査において,12年前と比較すると,トンレサップ湖の南部では地域住民の人口こそ増え社会インフラも整ってきたものの,生態系に影響を与えるような湖畔の開発などは軽微であることを確認することができた.これに対して同湖北部では,観光産業の発展と関係した湖畔の大規模な開発がこの12年間に進められており,自然環境の変化がより著しいとことが判明した.そこで,12年前の生態系からの変化を抽出するための総合調査は同湖北部に注力するべきとの結論に至り,研究実績の概要にも記したとおり,北部での総合調査を10月下旬と3月上旬の2回にわたって実施し,補足的な調査を8月下旬の1回実施する一方で,南部での総合調査は6月の予備調査と12月の1回を実施するにとどめた. 実施した調査項目は研究計画書に記したとおり,1)湖底地質分野,湖底堆積物の採集と解析,2)水文分野:湖水の物理学的・化学的データの収集と解析,3)植物動態分野:植物動態調査,地域住民の植物利用調査,4)光環境分野:光環境および一次生産の測定,5)底生無脊椎動物分野:底生無脊椎動物の採集と解析,6)魚類分野:魚類の採集と分類,種構成の解析,であり,これらの解析は現在進めているところである.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降のトンレサップ湖の生物多様性維持機構調査にあたっては,平成28年度における予備調査での確認事項と同湖南北での3回の総合調査と補足調査の成果をふまえ,この12年間における湖畔の開発が比較的軽微と認識された南部での調査も継続するものの,森林の伐採やインフラの建設といった開発にともなう自然環境の変化が著しい同湖北部のシェムリアプ沖から同湖北半部に重点をよりおきつつ進める予定である.これに加えてラオスのメコン河本流に建設中のダムの完成にともなう同湖の自然環境や生態系へ与える今後の影響評価や,首都プノンペンにおける人工島の建設といった河岸の著しい開発が同湖へ与える影響の評価についてもあわせ実施する予定である. 今後の調査項目についての変更はなく,1)湖底地質分野,湖底堆積物の採集と解析,2)水文分野:湖水の物理学的・化学的データの収集と解析,3)植物動態分野:植物動態調査,地域住民の植物利用調査,4)光環境分野:光環境および一次生産の測定,5)底生無脊椎動物分野:底生無脊椎動物の採集と解析,6)魚類分野:魚類の採集と分類,種構成の解析,を実施する予定であり,平成29年度には,前年度は調査することができなかった増水期初期となる5月下旬に加えて,増水期末期の8月下旬,最高水位期の11月上旬,減水期となる12月下旬あるいは1月におもに同湖北部において総合調査を実施するとともに,南部については高水位期に実施した平成28年度の結果との比較を念頭におきながら低水位期に総合調査を実施する.また,11月上旬に予定している総合調査の終了とともに各分野における調査結果の解析を本格的に進め,最終年度に予定している調査結果の総括と12年前の調査結果との比較ならびに生態系の変化の定量化,そして,生態系を保全するための方策についての検討を実施する.
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