研究課題
熱帯域における降水の酸素安定同位体比と降水量や気温など気象要素との関係を明らかにするため,インドネシア気象局に降水のサンプリングを依頼している.H28年度とH29年度において,インドネシア全域約40地点における毎週の降水サンプルを取得した.現在,全部で1,000個を越えるサンプルが熊本大学に届いており,酸素,水素安定同位体比の分析を行っている.H29年度は,代表者が兼任している海洋研究開発機構(JAMSTEC)が主導して,Year of Maritime Continent (YMC)の集中観測がスマトラ島において行われた.そこで,2017年12月から2018年1月において,スマトラ島ベンクル市の気象台において降水同位体観測を行い,65サンプルを取得した.これらは,すでに同位体分析も終わり,結果は国際会議で発表予定である.また,博士課程留学生がこれまでに取得した降水サンプルの解析を行い,インドネシア全域における降水同位体比の空間分布と季節変動を明らかにした.酸素同位体比の月平均値をクラスター解析した結果,同位体比の季節変化は,7-10月に同位体比が高くなるパターン,6-11月に同位体比が高くなるパターン,1-2月と5-8月に同位体比が高くなるパターンの3つに分けることができた.とくに3つ目のパターンは,スマトラ島とカリマンタン島西部にしか見られない.また,同位体比と降水量との相関が高く,降水量効果が卓越していることも明らかとなった.さらに,インドネシア周辺域を対象とした同位体領域モデルによって,2010年から2013年までの降水量と同位体比を計算した結果,降水量の再現性は悪いが,同位体比は半数以上の観測地点でよい再現性が得られた.今後は,降水量も含めてモデルの再現性を高め,降水同位体比の空間分布や季節変動の変動要因を考察する予定である.
1: 当初の計画以上に進展している
インドネシア気象庁に依頼している降水サンプリングは,H28年度もH29年度も順調に進んでおり,全域約40地点の1,000個を超えるサンプルが熊本大学に届いており,同位体比を分析中である.また,YMC集中観測における降水サンプリングも成功し,すでに65サンプルの同位体分析が終了している.このように,観測計画は当初の計画以上に進展している.また,これまでに取得した降水サンプルを使った解析で,博士課程留学生が国際誌の査読付き英文を執筆し,熊本大学において学位を取得した.現在は,インドネシア技術評価応用庁(BPPT)で研究員を行っており,H29年度からは研究協力者としてYMC集中観測に合わせた降水サンプリングを成功させ,本課題に貢献している.モデル研究についても,同位体領域モデルを使って,2010年から2013年までの計算が終わっており,同位体比はおおむね再現された.以上のように,観測研究の成功やキャパシティビルディングの観点からも評価できるので,「当初の計画以上に進展している」とした.
これまで,H28年度とH29年度において,インドネシア全域約40地点の降水サンプリングを成功させたが,今後も課題終了のH31年度分までサンプリングを継続する予定である.YMC集中観測では,JAMSTECの観測船みらいでもスマトラ島沖において,水蒸気と降水の同位体比を観測しており,本課題で取得した陸上での降水同位体比と合わせて,日変化による同位体比の変動について解析する予定である.また,これまでの降水サンプリングでは同位体比が非常に高く,d-excessが非常に低いサンプルが約1%あった.とくに雨季に多く,全域で見られることから,雨滴が落下中に蒸発する影響についても,衛星を使った上空の潜熱などと比較して考察する予定である.雨滴粒径分布と同位体比の観測は,日本でも予定している.モデル研究については,同位体領域モデルを使って2013年までの計算が終了しているが,今後は観測期間の2016年以降もシミュレーションを行い,降水同位体比の変動要因について考察する.最終的には,インドネシア全域における降水同位体の推定式を完成させ,観測が無い地点でも同位体比が推定できるようにする.現在,モデル計算用のPCが古く計算速度が遅いため,Linuxマシンの更新を検討している.
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Hydrological Research Letters
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