研究実績の概要 |
2018年冬季と夏季に、日本海沿岸に位置し、アジア大陸起源物質の越境輸送をうける能登(37.5°N, 136.9°E)において、ガス・微小粒子状物質を採取し、ガス・粒子態PAHの分析を行った。定量できたPAH成分は,Flu,Pyr,BaA,Chr,BbF,BkF,BaP,BghiP,IcdPの9成分であった。4環のFluとPyrはガス・粒子態で存在していた。そのほかの成分については、ガス態は検出限界以下の濃度であったため、粒子態のみで存在していたと考えられる。Flu及びPyrのガス・粒子分配は、夏季にガス態が多く、Fluは73-93%、Pyrは86-97%がガス態で存在していた。一方冬季には粒子態での存在が大きく、ガス態で存在するFluは17-39%、Pyrは8-26%であった。なお、PM10 以上の粗大粒子中のPAHs濃度は検出限界以下であった。粒子態PAHにはガス態ほど季節による大きな濃度差は見られなかった。冬季は気温が低いためにFluとPyrの蒸気圧が低く、ガス態よりも粒子態で存在し、夏季は気温が高いために蒸気圧が高く、FluとPyrの多くがガス態で存在しているものと考えられた。また、前年度に観測した北京での結果を踏まえ、粒子吸着モデルに基づいて考えると、大気中に浮遊する粒子量の多い北京ほど、PAHsが吸着できるサイトが多くなるため、能登に比べてガスの割合が小さくなったと考えられた。観測結果をもとに,領域化学輸送輸送モデルにおいて計算を行った結果、ガス・粒子態PAHはファクター10の精度でモデルでも再現された。また、FluとPyrのガス・粒子分配は、気温変化に依存していることもモデルでも示唆された。今後観測された結果を化学輸送モデルで再現すべく、他のガス・粒子分配スキームでの計算による感度計算を実施し、モデルの精緻化を行い、ガス態・粒子態PAHの越境輸送量を評価する。
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