研究課題/領域番号 |
16H05629
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹中 千里 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (40240808)
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研究分担者 |
村尾 智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (10358145)
野中 健一 立教大学, 文学部, 教授 (20241284)
池口 明子 横浜国立大学, 教育人間科学部, 講師 (20387905)
冨安 卓滋 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (60217552)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水銀 / 小規模金採掘 / シアン化処理 / 食生活 |
研究実績の概要 |
2017年8月にCamarines Norte州のHose Panganiban市において調査を行った。Luklukan Surの製錬所回りの土壌のHg濃度を調べた結果、表層は非常に高いのに対し、50cm深まで浸透していな事例が多く、流出については、表層土壌に焦点をあてる必要があることが明らかとなった。また、精錬所周辺では、葉の大きい植物のHg濃度が高く、表面沈着の影響が大きいことが推測された。また、シアン化処理をおこなっているCyanide Stationの周辺ではHg濃度のばらつきが大きく、植物中濃度は低いことが明らかとなった。 Hose Panganiban市の湾周辺における大気、土壌、水、懸濁物質中のHg濃度調査では、東海岸側が高いことが明らかとなり、市東部のバランガイにおける金精錬所からのHgの流入が大きいことが推察された。また、魚中のHg濃度は、最大値で 4.46 mg kg-1であり、有機水銀の割合は 約80%であった。 一昨年の毛髪調査の結果で、女性の毛髪中のHg濃度が最も高かったサルバシオンでは、漁業依存性高く、魚食の頻度も高いことが明らかとなった。また漁場は、湾内だけでなく外洋にも広がっており、魚の汚染についての調査は広域的に行う必要があることが示唆された。 稲作は二期作であり、湧水の引き込みによる天水田がほとんどであることが明らかとなった。稲作では肥料・農薬使用しており、自家消費と売却の両方に出している。精錬所が多く地形的にも急峻なLuklukan Surでは、かつて稲作をおこなっていたようであるが、現在は労働は鉱業のほうに偏っており、休耕田となった場が存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Camarines Norte州のHose Panganiban市では、当初の計画とおりに、女性の毛髪試料の分析結果から環境調査へ進展させており、ほぼ予定とおりに進んでいる。しかしながら、当初の計画書にあった雨季・乾季による違いを明らかにする調査は実施できていない。その原因として、調査における現地スタッフの人件費が予定よりもかなり高く、年に2回の現地調査ができない状況となったことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
調査の基本方針として、流域の評価ではなく、各特徴的な現場ごとの評価し、食品としては、コメと家庭菜園での作物に関する調査を追加する。魚については、リスクの高い魚の漁法・種類を特定し、報告するのは困難だと判断し、若干の追加調査のみを行う。 1.製錬所周辺におけるHgの拡散と分布について:2017年の調査結果より、精錬所から流出したHgは、比較的表層にとどまっている傾向が認められた。しかし、大雨等によって流出することが考えられ、その流出のしやすさは、表層における有機物の存在に関係するのではないか、と推測される。また、屋上菜園で栽培する野菜等への汚染が懸念される。そこで、精錬所からの流出したHgの水平方向への広がりを確認し、精錬所から大気に放出されて沈着したHgの土壌中での化学形態の違いを、植生の有無において比較検討する。大気拡散由来で直接沈着し、住民が食する作物について、汚染レベルを明らかにする。 2.稲作について、基本的には天水田であり、周辺の湧水等の引き込みをおこなって灌漑している。また、稲はメチル水銀を吸収するという報告があるため、水田におけるメチル水銀の生成の制御ができれば、リスク低下への提言が可能である。そこで、製錬所に近い水田の水の引き込みと汚染のレベルを評価し、水田土壌におけるHgのメチル化について、水分環境(湛水の有無、変動)による違いを実験的に明らかにする。 3.湾におけるHg汚染については、2017年の調査で、湾岸におけるおおよその汚染の分布が明らかになった。今年度の調査でも、可能な限り、湾堆積物の調査を行う。 4.魚汚染については、ヒトへのHg摂取のルートとして、魚が重要であることは、これまでの知見と一致した。2017年の調査において、サルバシオンではかなり詳細なデータが得られた。そこで魚調査に関しては、昨年の調査の補足にとどめる。
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