天山山脈北部地域の短命氷河湖の出水機構やその地形環境を調べるため,2018年7月~8月の1ヵ月間の現地調査を実施した.現地調査は,2017年に8月に出水したキルギス山脈のチェルクトール氷河,テスケイ山脈のコルムドゥ氷河,ゴルトール氷河,クムトールのペトロフ氷河,南イニルチェック氷河で実施した.また,キルギス山脈とテスケイ山脈でセスナ空撮を実施した. 短命氷河湖の出現と消失は,氷河前面の埋没氷を含むデブリ地形内部に発達したアイストンネルの内部環境の変化と関係する.地中レーダー探査により,未知のアイストンネルの位置と規模の検出を試みた.2018年に実施した南イニルチェック氷河で20か所の空洞サンプリングを解析した結果,空洞の反射には多重反射型と二重反射型の2パターンの反射特性が得られた.空洞の最大の高さが3m以下のものが多重反射型,3m以上あるものが2重反射型を示すことが明らかになった.このサンプリング結果の解釈に基づいて未知の2つのアイストンネルの検出を試みた.2013年に大規模出水したジェル・ウイ氷河では3本の測線から二重反射型,カラ・クンゴイ氷河では3本の測線から多重反射型が検出された.これら結果から大規模出水したジェル・ウイ氷河のアイストンネルのサイズは大きいことがわかった. 南イニルチェック氷河において,短命氷河湖と同様に氷河内水路の開閉で水位変動する氷河上湖について,ドローンの空撮画像から作成した地形表層モデル(DSM)を用いて水位の変動特性を調べた.この結果,氷河内水路の開放により1つの氷河上湖の水位が低下すると,他の複数の氷河上湖での水位の上昇が確認された. キルギス緊急対策省と氷河湖監視の打ち合わせをおこなった.早期情報伝達システムの運用を継続し,衛星データによるモニタリングをおこない,新規の湖が出現した際にはデータを提供し,調査後には調査結果を報告した.
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