研究課題/領域番号 |
16H05664
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
波佐間 逸博 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (20547997)
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研究分担者 |
松田 素二 京都大学, 文学研究科, 教授 (50173852)
榎本 珠良 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(共同研究員) (50770947)
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
梅屋 潔 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80405894)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 国内植民地 / 移民 / モビリティ |
研究実績の概要 |
地域研究班、移民調査班、都市調査班とも現地調査を実施し、アフリカの非定住生活者および移民社会における流動的でフレキシブルなシティズンシップの実践にかんする事例を記録した。この資料との比較検討にもとづいて西洋近代に由来するシティズンシップ・モデルの限定性を帰納的に明らかにした研究の成果は、論集、研究論文、口頭発表などの形で公表した。また国内研究会を大阪(四天王寺大学あべのハルカスサテライトキャンパス)にて開催し、アフリカン・シティズンシップの概念化に向けた研究枠組みを検討した。 日本の社会学・人類学では2016年に、東アフリカにおける自生的なシティズンシップを記述・分析した論文「アフリカ国内避難民のシティズンシップ─東アフリカ牧畜社会の事例」(湖中真哉)を所収した、錦田愛子編『移民/難民のシティズンシップ』が刊行された。国外では2013年にCritique of Anthropology 誌上で特集“Citizenship, the Self, and Political Agency”が組まれた。上記の研究会では、これらの最新の研究動向に即しながら、移民・非定住者・国内被植民地生活者による公的な異議申し立てという非公式的な政治参加のトレンドに注目することによって、①国民国家の共同幻想に由来するシティズンシップの法律政治体制の規定性と、それを無効化するヒエラルキー構造を批判的に検討し、②日常的政治実践において多様に運用・創出されるシティズンシップの現実世界の動的概念へと分け入り、③自己/他者にかかわる特定のカテゴリーに基づいて特定のシティズンシップを配分するトップダウン式の企図と集合的/個人的政治行動との二分法を乗り越える、社会科学の新地平がきり拓かれうることを、メンバーの全員が再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の現地調査をつうじての資料収集と整理、そして、それをもとにした討論の結果、21世紀のシティズンシップにおける「理念と実際との緊張関係」への明敏な感覚を持ち、非暴力と対話を重んじながら、非公式的で能動的な政治参加を果たす批判的市民の実践、ひいては広義の民主主義に関わる広域ネットワークの起動への道が開かれつつある。
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今後の研究の推進方策 |
ウガンダ・カンパラ、南アフリカ・ケープタウン、日本・大阪で予定している本年度の国際研究集会については、科研費基盤(A)「接合領域接近法による東アフリカ牧畜社会における緊急人道支援枠組みのローカライズ」(代表:湖中真哉)、科研費基盤研究(C)「モビリティとシティズンシップ―ウガンダ・アルバート湖岸地域の共生原理」(代表:田原範子)、日本学術振興会二国間交流事業共同研究「21世紀の南アフリカと日本におけるシティズンシップ」(代表: Francis Nyamnjoh・波佐間逸博)と共同で開催し、公開性を高める。また科研費基盤(S)「アフリカ潜在力」と現代世界の困難の克服:人類の未来を展望する総合的地域研究」(代表:松田素二)、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターとも共催できないか、可能性を模索する。 現地調査と討論の成果は、海外研究協力者であるFrancis Nyamnjohの協力の申し出を受ける形で、今後、査読システムを有する学術雑誌(Citizenship Studies誌)の特集号と、アジア・アフリカを対象地域とする、民族誌的なシティズンシップ研究を所収した論集(Langaa学術出版会)の出版をつうじて公表する。
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