研究課題/領域番号 |
16H05694
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
出利葉 浩司 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 学芸員 (40142088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 博物館民族学 / 民族資料返還 / 博物館資料収集 / 民族学博物館 / 民族知の返還 / 先住民言語の復興 |
研究実績の概要 |
これまで世界各国にある博物館が当然のこととして収集してきた「民族資料」について、各地域でその返還要求が政治的、文化的な動きとなっている。そのような活動のなかで、先住民など資料提供者側と博物館側とは、どのような方法で、どのような「あらたな関係性」を築きつつあるのだろうか。その事例を調査し、文化人類学的課題として比較検討するのが本研究の課題である。平成28年度は、確定した予算の関係から、予定していた調査地の再吟味、変更が必要となったため、メンバーの今後の予定などをふまえ、調査地点と調査時期、それぞれの地域における現時点で確認されている課題や問題点について打ち合わせをおこなった。また、国内の事例についても、とくに音声・映像資料に記録されたアイヌ民族の言語や芸能についての普及活動について、現状や問題点について報告を聞き、議論した。 (1)全体の概要説明(11月) 出利葉浩司「博物館をめぐる民族資料の返還ー研究の目的と意義、いま、なにが問題か」 (2)各メンバーによる研究課題の概要報告(11月) 太田好信「グアテマラにおける先住民言語の復興復運動について」、窪田幸子「オーストラリア、ニュージーランドにおける先住民資料の返還について」、慶田勝彦「アフリカにおける盗まれた資料事例についてーとくにキガンゴとよばれる墓標の返還」、伊藤敦規「米国先住民墓地保護・返還法について」 (3)平成28年度の調査成果(2月) 甲地利恵「音声、映像資料の公開についての問題点」、田村雅史「北海道におけるアイヌ語学習者とアイヌ語資料」 (4)国内調査について(1)甲地利恵(7月) 北海道枝幸町において、アイヌ伝統芸能を中心とする普及活動の実践および結果の記録。(2)田村雅史・出利葉浩司(8月) 北海道枝幸町において、アイヌ語の普及活動およびアイヌの伝統的衣文化についての普及活動の実践および結果の記録。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者が所属をかわることが年度途中で決まったため、移動にかかわる諸手続きや残務整理など想定外の業務に時間をとられたこと。また、調査を予定していたメンバーが、長期間の海外調査日程の調整がつかなかったことにより、海外での調査を次年度以降に延期せざるをえなくなったことが、遅れることになったおもな理由である。これに加えて、本研究は、世界の博物館が保管する先住民資料の返還についての調査を中心的課題とするが、まさにそれに関連する重要な課題が日本国内の大学、博物館施設でおこった。文部科学省主導のもとに、全国の大学、博物館が保管するアイヌ民族の遺骨についての所在調査およびその公表がおこなわれたが、研究代表者が所属する博物館もそれに関係していたことがある。これについては、研究上の成果を求める以上に、倫理的な問題の確認や、調査方法などを十分に議論したうえで、研究活動は慎重におこなうべきであると判断した。ただし、実際に各博物館で調査をおこなうまえに、現時点での国内の状況の確認、調査の意義の再確認のための会議をおこなうことができたこと、またこれまで事前の調査として収集していた文献類の整理に着手できたことは、プラスに評価できる点であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究は当初の計画より遅れてはいるが、平成28年度は、研究の目的とその方法、調査地域と課題など、より基礎的なことがらが議論できたと考えている。これをふまえて、平成29年度からは、本格的に海外での調査を重点的に行う。 平成29年度 (1)オーストラリア・ニュージーランドの国立博物館における先住民族資料の返還実績の調査 (2)デンマークの国立博物館における考古・民族学的資料の返還実績の調査 (3)アメリカ合衆国もしくはカナダの州立博物館において、博物館所蔵資料の活用についての調査 (4)国内での研究打ち合わせ集会として、平成29年度調査地点の確認と調査内容・方法の議論、および年度末に調査成果の検討、理論的な研究会の二つを計画している。 平成30年度 (1)アフリカ(ケニア) (2)スコットランド国立博物館 (3)アメリカ合衆国(国立博物館) (4)カナダ北西海岸地域の博物館 平成31年度 成果の公表に向けた研究会 成果の公表については、研究書の刊行も含めて検討中である。
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