研究課題/領域番号 |
16H05695
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
木下 秀雄 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (50161534)
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研究分担者 |
上田 真理 東洋大学, 法学部, 教授 (20282254)
嵯峨 嘉子 大阪府立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30340938)
嶋田 佳広 札幌学院大学, 法学部, 准教授 (40405634)
布川 日佐史 法政大学, 現代福祉学部, 教授 (70208924)
吉永 純 花園大学, 社会福祉学部, 教授 (70434686)
武田 公子 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (80212025)
前田 雅子 関西学院大学, 法学部, 教授 (90248196)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 若者 / 就労支援 / 職業訓練 / 難民 / 難民問題 / 労働力不足 / ドイツ / 社会法典 |
研究実績の概要 |
2016年8月~9月にドイツの4つの都市のジョブセンターで聞き取りを行い、青少年に対する就労支援の最近の展開について調査を実施した。さらに、連邦職業教育訓練機構(BIBB)では、政策の展開に関する担当者からの聞き取りと合わせて、職業訓練を実施している民間団体の担当者等からの聞き取りを行った。ベルリンでは、実施機関での公的な形での聞き取りにとどまらず、ケースワークを実際に担当している職員個人からの聞き取りを行なうことができた。こうして、今年度はドイツにおける若者に対する就労支援と生活保障のありようを立体的にとらえることができた。 また、研究者や研究機関との意見交換も行った。そこで、ドイツが直面している労働力不足と他方の低所得で職業訓練を修了していない若者の生活保障と就労支援の関係をどのように解くのかについて、日本での政策決定に資するような示唆を得ることができた。 最後にフランクフルトで、市民生局にこの間設置された難民支援センターでの聞き取りを行った。それだけでなく、難民が現在暮らしている居住地の状況を直接調査することができた。そこでは、宗教的、文化的背景が異なるというだけでなく、難民にならざるを得なくなる悲惨な体験や難民状態で移動する中で経験する悲惨な体験が当事者のトラウマになっているというさらなる困難な問題がリアルに語られた。現在の支援の状況も、現場に行くことでよく理解できた。そしてそうした難民に対する支援の大きな柱として、特に若い難民に対する職業訓練、就労支援が、ドイツでこれまで積み重ねられてきている若者に対する就労支援と通底するものがあることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の調査と研究により、われわれグループがこれまでの調査と研究で蓄積してきた内容を、2016年段階でドイツで起こっている難民問題等の新たな課題との関係でさらに深めることができた。そして当初計画していた,「支援の連鎖の構築」という新たなコンセプトのもとで若者就労支援を行うジョブスタータープロジェクトを統轄する連邦職業教育訓練機構での聞き取り調査と同プロジェクトが実施されている各都市でのユーゲントジョブセンターの訪問調査は実施することができた。これらの成果ととあわせて、2017年3月に、来日されたMuender教授が参加した日本での研究会で論点をさらに整理することができた。今後、今回の調査で明らかになった実態が、ドイツ全体の中でどのような位置にあるのかを確定するため、さらに調査対象を広げる。また、社会法典第2編のみならず、第3編や第8編という若者就労支援を取り巻く法制全体の課題のより深く多面的な調査分析するという課題が明らかになってきた。さらにそうした若者就労支援の課題と難民問題との交錯局面を、より広い範囲で調査することも次の課題として浮かび上がってきた。このようにさらなる課題が明確になることで2016年度調査研究は当初の目的を基本的に達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の調査で、ドイツの若者に対する支援は、最低生活保障としての社会法典第2編と雇用促進法制としての社会法典第3編とともに、社会法典第8編に基づく青少年に対する自治体の税財源を基にした若者支援策が重要であることが明らかになってきた。 今年度は、こうした社会法典第2編、第3編と第8編の交錯場面における、各給付主体、行政機関の決定権限、財源を調査分析する。さらに具体的な支援実施主体としての民間団体とこうした給付主体との相互の関係と、それぞれの若者支援の理念について、より調査対象を広げて聞き取りを実施する予定である。 特に、それぞれの法制の間の「境界面」をなす社会法典第2編3 条 2 項・14 条から 16h 条に基づく給付と、社会法典第8編の職業支援的な給付との内容上・方法上の区別を明らかにする。また、社会法典第3編のBerufseinstiegsbegleitung(入職伴走支援、49 条)、Ausbildungsbegleitende Hilfe(職業訓練ナビゲート支援。75 条)、 Assistierte Ausbildung (支援付きの職業訓練、130 条)等の具体例を現場レベルで調査する。そうすることで、社会法典2 編及び3編の労働市場志向給付と社会法典第8編の社会教育的側面を重視する支援との関係を分析する。 さらに、こうした諸法の交錯場面を整理する基準として、当事者の稼働能力ないし障害の有無及び程度の判定が重要となる。そうした認定を行うのは社会法典第2編では雇用エイジェンシー(AA)が担当し、社会法典第9編との関係での障害の程度の判定は援護事務所(Versorgungsamt)が行っており、また年金については年金事務所がその任に当たっている。今回の調査ではそうした稼働能力ないし障害の判定の実務を担っている諸機関の調査とその判定基準の実態を明らかにすることを課題とする。
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